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NIPT陽性|先生、私はひどい母親ですよね

NIPTの結果、陽性になった妊婦Aさん。

NIPTで陽性になった方には必ず遺伝カウンセリングを受けていただいていますが、その日、ミネルバクリニックに来られる前に、産婦人科では超音波で赤ちゃんの異常が指摘されていました。赤ちゃんの心臓に異常があるのと、脳にも水が溜まっていると言われたそうです。

NIPTでこの疾患なら外れることはほとんどありません。超音波の写真を見せてもらいました。

たった1枚のエコー写真ではわからないことが多かったのですが。頭蓋骨が欠けているように見えました。

でも。赤ちゃんは元気に動いていたそうで。小さな赤ちゃんが元気に手足を動かしている姿は本当に可愛らしくてたまりません。
だけど、「本当にこの結果が正しいならば産めない」と思ってしまうAさん。涙をぽろぽろこぼしながら言いました。
「先生、あんなに元気に動いているのに、産みたくない、産めないって思ってしまうわたしは酷い母親ですよね。」

わたしは言いました。
「いいえ。あなたは別に酷い母親ではありません。今は元気に動いていても、この結果が事実ならそのお子さんはうまれてこれない可能性のほうが高いです。」

Aさんの心はわたしの言葉で晴れるような状況ではありません。
だけど中絶するなら羊水検査まで待ちたくない、遅くなってしまうから、という事でした。

でも。普段行っている産婦人科のエコー所見だけでは決めかねていました。医師からどれくらい重たいのかという説明が殆どなかったからです。

わたしはAさんにはもっと詳細な超音波検査をして、赤ちゃんを詳しく見たうえでどれくらいの異常があるかどうかをはっきりさせることが必要だと感じました。
そのままあきらめられる人もいれば、ちゃんと検査してどうしようもないんだというこれ以上ないエビデンスを意思決定のために必要とする人もいます。
Aさんがどっちだったのかは分からないのですが。

昨日の今日で、そしてNIPTの結果と1枚のエコー写真であんなに元気に動いている赤ちゃんをあきらめきれないという思いも十分伝わってきました。
だけど本当にトリソミーのお子さんだった場合、産めないし、だったら母体の負担が少ないうちに中絶したほうがいいとAさんは思っていました。妊娠週数が増えれば増えるほど、赤ちゃんの疾患を理由にした中絶の心の傷が大きくなることは報告されている通りです。

関連記事:妊娠中絶の精神的な影響|胎児異常による中絶は心理的負担が大きいので特にケアが必要

あんなに元気に動いている赤ちゃんに対してそんなことを考える私はひどい母親ですね。Aさんは何度も何度もそう言って涙を流していました。

彼女の心を軽くするには、どうしてもあきらめざるを得ない確たる証拠が必要です。
彼女には腕のいい先生のところで詳しい超音波検査を翌日受けてもらいました。

そうすると、いつも行っているクリニックの超音波検査では指摘されなかったもっと重たい異常所見がありました。赤ちゃんには頭蓋骨が一部なく、脳の一部もありませんでした。心臓にも重い奇形がありました。単一臍帯動脈もありました。

この赤ちゃんは奇跡的にうまれたとしても生きられないし、うまれるのも本当に難しい。

Aさんはこの結果を受けてやっと気持ちの整理がつきました。
何かに背中を押してもらうことが必要な時って人生には時折あります。

Aさんにはこの超音波所見の異常がここまで重いという事実が必要だったんです。今は元気に動いているおなかの赤ちゃんをあきらめるのに。

そしてAさんはそのまま中絶を決めました。

妊婦さんたちは妊婦健診で超音波検査をしているから、エコーでダウン症候群をはじめとするトリソミーが指摘されると思っていませんか?
実は、妊婦健診の超音波検査は心拍があるか、赤ちゃんの大きさが週数に比べてどうか、NTがないかなどといった大きな項目しかチェックしていませんし、エコーは一番医師の技量で左右される検査ですし、胎児ドックを行っているクリニックのエコーと通常の妊婦健診のエコーは全く見え方が違います。
NIPTを受けてよかった。はやく知ることが出来て本当によかった。そうおっしゃっていました。

いずれにしても、誰が何が悪いわけではないので、上のお子さんや旦那様のためにも、この経験を明日を前向きに生きる力に変えていってほしいです。

ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医がこうして一人一人の最善を個々人と共に探して実現するようお手伝いすることや、結果として皆さんの幸せが増えるようにという思いで頑張っています。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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