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20代の出生前診断NIPT陽性|高熱出したので不安になり受けた

20代女性、初めてのお子さんでしたが、出生前診断を受けようと思いました。

理由は、全然妊娠したと知らなかったころ、新型コロナワクチンを受けてご夫婦そろって40度くらいの高熱を出してしまい、赤ちゃんに何か影響ないのか心配でたまらなかったからです。

初めての妊娠で産婦人科なんてかかったことが普段からありませんから、慣れていないところで質問をしたいと思っても気後れして聞けない。そんな中、不安を払しょくしたいと思って出生前検査を受けることにして、専門医だからいろいろ質問できそう、と思いミネルバクリニックを選んだそうです。

検査当日の様子

初めての妊娠と言うのは本当に不安なものです。毎日自分の身体がなんとなく変わっていく感じがして。吐き気はするし。

でも。この20代女性の場合は、先ほどもお伝えした通り、それ以上に新型コロナワクチンの1回目を受けた直後に40度以上の高熱が出て、数日後に妊娠とわかったので、あの高熱やワクチンの影響が赤ちゃんにないのかどうか心配でたまらなくなりました。

そこで、とにかく赤ちゃんに病気がないかを確認しようと新型出生前検査NIPTを受けることにしたのですが、いろんなクリニックの中でミネルバクリニックが目に留まりました。新型コロナウイルス感染症COVIDについてもいろいろ情報発信をしていて、質問に答えてくれそうだったからです。

お安い御用です。わたしが勉強したことが世の中の人たちの役に立つなら嬉しいです。

妊婦さんにこそCOVIDワクチンを受けてもらいたい、など妊娠とCOVID-19のところにたくさん記事を掲載していますので、そちらを是非ご覧ください、とかお伝えしました。

結論としては、COVIDワクチンはmRNAワクチンと呼ばれる種類のワクチンであり、RNADNAと違って自然界にたくさんRNAを分解する酵素があるから、胎盤を通って赤ちゃんにたどり着いて悪さをするなんて考えられません、そもそもその週数だったら胎盤もまとにできていないので赤ちゃんにワクチンの成分が到達することは不可能です、とお伝えしました。また、高熱を出したことで赤ちゃんが何らかの病気になるということもありません。母胎内で風疹などの先天性感染症候群を引き起こすような感染症に赤ちゃんがかかった場合は話が別ですが、ワクチンで高熱を出しただけだと全く影響がないと考えます。

でも。そのこととは別に、ダウン症候群のお子さんを出産しているお母さんたちの8割は35歳未満ということを現実として知ってほしいのです。35歳以上は産婦人科で高齢妊娠による染色体異常のリスクなど説明されて、出生前検査を検討して受ける人が多いためと考えられます。しかし、ダウン症候群のリスクは20歳だと1667人に1人程度になるだけで、若くてもゼロではありません。

夫を持つのと同様、お子さんを持つ、新しい家族を持つ、というのは人生にとって喜びでもあるしリスクでもあります。実際、結婚したからと言って何十年もの間うまくいくという保証もありません。人生は選択の連続で、幸福もリスクも毎日の選択の中にあります。リスクを減らしたい、というのは様々な人生設計ができる現代社会ならではのことと思います。善悪の問題ではなく、そのリスクをどう引き受けるかという問題ですよね。

たとえばこういう検査を非難する人、妊娠中絶を非難する人達がいますが、そういう人たちにとってプロ・ライフつまり生命を擁護する、の生命はおなかの赤ちゃんであって、生まれてきた後に障害のある人たちが生きていきやすい社会にしようとか、親御さんが育てられない場合は社会全体で引き受けて育てるので安心して産めるような環境を作るとかいう運動が盛り上がっているのをついぞ知りません。プロ・ライフを主張する人たちが合法的殺人ともいえる死刑制度の維持を希望するなど矛盾をはらんでいます。矛盾のない態度の人は存在しないと思います。それほど複雑な問題が絡み合っているのが現代社会であって、一面だけ取り上げて議論したり結論したりすべきではないのです。日本はもっと複眼視的な視野に立って、物事は多角的に検討し、かつ俯瞰して幅広いところから検討するという態度を教育することが必要ですよね。次世代を担う赤ちゃんたちをこれから産む人たちに是非考えてもらいたい点です。

NIPT(新型出生前検査)を受けよう、予約する、実際に検査しに来る、の段階でいろんなことを考えたでしょう。わたしはそれでいいと思います。考えることが大事なんです。

そんな話をして検査を出しました。

NIPTの結果は陽性

当院では9週から検査ができますので、この方の陽性検査結果が出たのは12週になる全然前でした。

妊娠中絶を考える場合、12週を過ぎるかどうかは大きな違いとなります。12週を過ぎると中期中絶となり、分娩と同じように産まないといけないから母体に対する負担も大きくなるし、費用も高くなりますし、数日間の入院が必要だとか初期中絶とは違い精神的なダメージが大きくなることがはっきりしています

わたしも以前は、必ず羊水検査をすべきだ、と患者さんに言って、結果的に追い詰めてしまっていたのですが。次に妊娠して検査を受けに来てくれる患者さんたちも何人もいて、やっぱその時の精神的な苦痛をいろいろお伝えいただきました。たくさんそういう「陽性を確定検査するために20週近くになり中絶した」経験を語っていただいて、患者さんたちを追い詰めているのでは、と疑問に感じました。

お子さんに異常があるわけでもないのに、今産みたくない、今妊娠したくなかった、とか様々な別の理由で出生数の2割近い中絶が日本では行われています。陽性になった人たちの中には陽性が間違っている偽陽性、つまり正常なお子さんが含まれていることは確かです。しかし、その率は高くありませんし、NIPTが始まったころの第一値世代と比べると精度も格段に上がっています。そんな中、圧倒的少数の正常なお子さんを探すために圧倒的多数の女性たちによりつらい経験をさせることは本当に倫理的に正しい事なのか。一例一例と向き合っていくなかで、わたしには段々とわからなくなっていきました。

これはわたしの推測ですが、遺伝診療の現場では、NIPTの説明もするし陽性の説明もする。あとは産婦人科で羊水検査やってね、で通常終わりです。その先の中絶した人たちにその後寄り添うということはしていないでしょう。

わたしの考えは、「本当のことが知りたい」ですので。やはり、ここから先はわたしの問題ではありません、と線引きすることに抵抗がありました。どんな日もわたしの患者さんはわたしの患者さんなんです。

そういう話をして、患者さんとお母様がだいぶ落ち着きを取り戻し始めた頃、お母様が、今回はあきらめて、次の赤ちゃんを早く得たほうがいい、という意見を出しました。お嬢さんはまだ混乱していたのと、旦那様がどういうお考えなのかがはかりかねていたようでした。

検査結果を夫に対して先生から説明してもらってもいいですか。そういわれました。いいですよ、今日は仕事で来れないってことなので、来れるようになったらまた今度は旦那様と一緒に来ましょうね。そういいました。

そして。どういう医療機関に相談すればいいのかとかという話もして、この日は帰りました。

その後

それから日をおかず、ご夫婦でもう一度来られました。夜遅くてもいいから大丈夫だから、といってきてもらいました。
時間が少し経過して、患者さんは少し落ち着いた様子でした。
何より旦那様のお考えも同じで、奥様の身体的精神的負担をなるだけ軽くしたいので、決断するなら早くしたい、そして次の赤ちゃんがまた来てくれるようにしたらいいのだ、という事でした。

奥様からは数軒の産婦人科に行ってみたけど、少し説明内容に疑義があったようで、わたしのほうでエビデンス調べてお渡ししました。

本当は超音波吸引法で安全に行える週数であるのにもかかわらず、超音波吸引法だと出血が多くなるから1週間延ばして子宮口拡大して中期中絶するように、そちらのほうが安全だ、という説明をした産婦人科医がいたのです。

なので、2012年にすでにWHOが掻破法は危険なので超音波吸引法にするようガイドラインを出しているが、日本の産婦人科医たちはどういう理由かそれに従っていなくて、WHO的にはすごい問題だと思われていること、米国だと13週以降も16週くらいまでは超音波吸引法がされる、この時期の胎盤の異常はあまりないので、超音波吸引法で出血が増す、安全性が子宮口を拡大する手術に比べて劣るという事は全くない、と言う説明をしました。
日本産科婦人科学会のHPにもそのような記述はあるのに、現場に浸透しないのはなぜでしょうか。本当に患者さんたちのことを考えているのか、それともほかのものに規律されてその行動原理があるのか、わたしにはわかりません。

ただ、今回のことで、もっと産婦人科医療の現場のことを知らないといけないなと感じました。

それと、やはりこういうセンシティブな選択は、ご本人たちがすべきであって、確定検査をしなきゃいけない、と追い詰めるべきではない、と思いました。
確定検査をしたい人を翻意させてしなくていいよと言っているわけではないのですから。

CDCのHPのPost-test Counselingにはこう書いてあります。

Always offer invasive testing for confirmation
Patients should never be offered the option of termination without confirmation

確定のための侵襲的検査を常に提案する
患者たちは確定検査を受けずに中絶という事を提案されるべきではない

この意味は、言葉の通りで、こちらから「確定検査を受けずに中絶したほうがいい」とすすめるべきではない、という事ですよね。ご本人たちが中絶するならより早期を希望する、16週以降にならないと受けられない羊水検査は受けないし、絨毛検査も受けたくない、初期中絶を希望する、ということがはっきりしている場合、その自己決定が情報不足や誤解から来ているのであれば情報を補う、誤解は解く努力をしたうえで、やはりご本人たちの意思決定を尊重すべきだ、というのがわたしの考え方です。

ご夫妻は穏やかにほほ笑んで見つめあって幸せそうに帰っていきました。

先生、ありがとうございます。そう言っていました。

別れ際にわたしは一言述べました。

これからも仲良く幸せに過ごしてください。それだけがわたしの願いです。

まとめ

わたしはもともと遺伝専門医になる前に生命倫理や世界各国の中絶に対する政策の違いとそれが何に由来するのか、生命倫理を取り巻く法制度などを勉強してから臨床の勉強をしました。

それでも臨床現場にはたくさんの問題が混とんとして存在し、何が正解か、という視点だけではありません。

わたしは裁判官ではありません。医師なので、患者さんの「今」の「苦しい気持ち」に寄り添い、その心の負担や全体として受ける傷が少ない道をご自身で探して選んで歩みだせるよう支援することしかできないし、それ以上のことはしてはならないのだと思います。

実際に自分たちの人生を歩まねばならないのはほかならぬ当事者たちなのだから。

笑顔で帰っていく患者さんたちの心の平静。辛い中にあって自分たちで決めたことに向かっていくという前向きさが乗り越える原動力となります。辛い時、必ず寄り添える人でありたい。ご夫妻の笑顔を見て心からそう思いました。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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