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自閉症遺伝子検査事例|仕事がうまくいかなくて発達障害を疑われた

20代のAさんは大学を出て働いています。

でも。なかなか仕事がうまくいかなくて、特に対人関係がうまくいかなくてずっと悩んでいました。

発達障害は幼少期に診断されると考えられていました。しかし、知的障害を伴わない場合には発達障害の特徴であるコミュニケーション障害があっても、学生時代には勉強ができるなどして環境に適応出来ていて、症状がわからないことがあります。

大人になって、社会に出ると、学生時代には求められなかった、より高度で複雑なコミュニケーションが求められるようになり、コミュニケーション能力の問題が顕著となって、初めて発達障害と診断されることが多くなっています。

大人になってから診断される発達障害の場合、診断名は自閉スペクトラム障害(ASD)と注意欠如・多動症(ADHD)の二つが殆どでしょう。

発達障害はは生まれつき(遺伝)、または妊娠中・出産時の異常や新生児期の病気などで脳の発達に問題がでて、正常であれば成長とともに獲得するはずの言葉や社会性、感情のコントロールなどのコミュニケーション能力が、未成熟になるために起こると考えられています。

失敗が多く、怒られてしまったりするとどんどん自信が持てなくなります。

自分は本当に言われているような発達障害なのか?

それが本当ならばこの先の人生をどう生きたらいいのか?

そもそも遺伝的な要因なのか、環境的な要因なのか。Aさんはとにかく自信がなくなっていき、仕事を続けられるのか、このまま生活できるのか、人生の見通しが立たなくなってしまいました。

最近では大人になってから突然、発達障害と言われてどうしてよいのか分からなくなってしまう人たちがいるようです。

どうしよう。どうしたらいいのか。いろいろ考えましたが、Aさんはとにかくご自分の遺伝子に問題がないかどうかを検査したくなりました。

発達障害の診断は遺伝子検査で行うものではなく、あくまでも遺伝子検査の技術が進んだことで発達障害やその類型の自閉症スペクトラムと関係があるとわかってきた遺伝子について病気をおこす変異(バリアント)があるかどうかがわかるのが遺伝子検査である、ということは説明したのですが、お越しになるまでの間にいろんなことをネットで調べて、「検査を受けたい」という思いは強固でした。

明日に一歩踏み出すのに、毎日淡々と踏み出せる人もいますし、その一歩を踏み出すのにいろんな理由と勇気が必要な人もいます。

それに。次世代シークエンサーが出来てから1回あたりの検査が割と安価にできるようになり研究が進んできたのがこの10年くらい。この間にASD自閉症スペクトラムと関係のある遺伝子はどんどん特定されてきて、今後またさらにこのスピードで追加されていくことはないと思います。だから、一生に一度検査を受けると、よほど大きな変化がない限りもう一度検査を受けなおす必要はありません。遺伝子の情報は変わることはないからです。

Aさんは、人生設計をするのに遺伝子検査を必要としている。この先自分の人生を自分で切り開いていくのに、自分自身を知ることが必要なんだ。お気持ちを伺っていてそう思った私は、上記のようなことも含めて考えて、わかりました、検査をしてみましょう、と言いました。

1か月くらいして検査結果が出て、その説明のためにAさんに来てもらいました。

結果としてはAさんには大きな遺伝子の異常は見つかりませんでした。原因は遺伝子じゃない、自分の努力で変えていくことが出来る。

晴れやかな表情で帰っていくAさんを見送りながら、遺伝子検査っていろんな人たちの人生を変えていく力があるんだなと思いました。

これからも、患者さんたちが笑顔で人生の次のステップを歩みだせるようなカウンセリングを心がけて精進したいと思います。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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