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合理的倫理的判断に必要なものとは?

良い倫理的判断は少なくとも
1.事実と価値の区別
2.判断の一貫性
3.視点の公平性
を考慮にいれている必要があります.

以下,順番にこれらについて見ていきましょう.

1 事実と価値の区別

これ.めっちゃ難しいんですよ.
だって.わたしは意外と一生懸命ロジカルに考えているほうだと思いますが
うちの弁護士のやまぴーから それは価値 と一蹴されることが【よく】あります(笑)

言うは易し,行うは難し なのが 事実と価値の区別です.

では,例示しながら述べていきましょう.

価値判断の違いはしばしば事実判断(事実認識)の違いに基づく

明らかに誤った事実に基づく価値判断は,その限りで「誤っている」といって差し支えありません.

たとえば.

クローン人間を作ると,同一人格を持った人が二人存在することになり,個人のかけがえなさが失われてしまう.ゆえにクローン人間は作るべきでない.

(。´・ω・)ん?
クローン人間とか言うわかりにくいものが出てくると,つい,うなづいてしまいそうですが,どうでしょうか?

この文章の前提にあるのが
DNAが同一の個体は人格も同一になる
という【誤解】に基づいているのがわかりますよね?

したがって,この文章はまったく説得力を持たないものとなります.

これはどうでしょうか?

安楽死を合法化すると,死にたくない人までが意に反して安楽死させられるという濫用が生じる.ゆえに,合法化すべきでない.

安楽死の合法化 という原因と
死にたくない人まで意に反して安楽死させられる という結果

この2者の間に因果関係があるか?ということが問題となります.

安楽死を認められている国が世界にはあり
実践が行われているオランダ,ベルギーやアメリカのオレゴン州における実証的観察研究により
そのような濫用が生じないことが示されたなら,この文章は説得力を失う事となりますよね.

そして,導入されてだいぶたちますが,そのようなことが実証されたことは聞かないので
これはすでに説得力を失っていると考えます.

関連する事実につき,可及的正確な情報に基づいていることは,
倫理的判断が合理的なものであるための基本的条件の一つとなります.

ある事実判断から一定の価値判断が直ちに出てくるということはない

たとえある問題についての事実判断が二人の間で一致していても,その問題についての価値判断が一致しない場合があります.

たとえば
「治療できる」と「治療すべきだ」とは直ちには言えない場合があります.
重症貧血エホバ信者の輸血を考えたらわかると思います.

事実について話しているつもりで,知らず知らずのうちに話者の価値観が入りこんでいる場合がある

これ,結構厄介です.よくツイッターで絡まれています(笑)

原因は事実について話をしているつもりで特定の価値観を含むような言葉を混在させているためです.

言葉がよいイメージを伴っていたり,悪いイメージを伴っていたりすることはよく知られています.
実際に

防犯カメラと監視カメラ
テロリストとレジスタンス
安楽死と尊厳死

これらは同義ですが,印象はどうでしょうか?
一方は良いイメージ,他方は悪いイメージを伴っていますよね?

医療の分脈で特に注意が必要なのが「医学的無益性(medical futility)」です.

ある治療法は当該疾患に対する医学的適応を欠くから無益だ

これは特定の価値観を含まない(価値的に中立)ですよね.

回復の見込みのない植物状態の患者に対して人工呼吸器を使用し続けることは無駄だ

「治療に一定の効果があったとしても患者のQOLがあまりに低い場合は治療を中止したほうがよい」という話者の価値判断が含まれています.
このため,「無益」という言葉が用いられた場合には,特定の価値観が含まれていないかどうかに注意する必要があります.

この文章を臨床現場で実現するためには様々な定義が必要です.

回復の見込みがない植物状態とはどのような状態を指すのか?
⇒植物状態を10年以上続けたのちに回復したという事例も少ないながらありますが,どの症例が回復し,どの症例が回復しないのかという区別をできる要素をわれわれは見いだせていません.

続けること とはいったいどれくらいの期間をさすのか?
⇒1週間?1か月?1年?10年?
ほらね.だんだんわからなくなりませんでしたか?(笑)

無駄だ とはいったいどういう状態をさすのか?
⇒どういう一線を超えたら無駄であるのかという定義をしないといけませんよね.

このように医療にかかる,すなわち生命倫理にかかる問題は非常に複雑で高度な情報処理能力と論理的思考力を必要とします.

2 論理的判断の一貫性 consistency

Treat like cases alike. (等しい事例は等しく扱え) という格言があります.

この当たり前そうな格言にも問題があります.

比較対象となる二つの事例に関して,どの点を同様とみなし,どの点を異なるとみなすか?

よく似た事例であっても,厳密に全く同一事例は存在せず,何らかの相違点を指摘することは常に可能となるからです.

道徳的に重要な違いmorally relevant difference

ある二つの事例に道徳的に重要な違いが一つも見出されないならそれらの事例に対しては同様の倫理的判断をなすべきでしょう.

積極的安楽死(致死薬の投与)と消極的安楽死(治療の停止)

前者は許容されるが後者は許容されないと主張するのであれば,両者の間にある道徳的に重要な違いを指摘しなければなりません.

そのような違いとしては,
作意と不作為,
意図することと予見すること
などが指摘されているが,
それらの違いは道徳的に重要ではないという批判もあり,なかなか難問です.

ちなみに,判例では前者は殺人罪に問われ(川崎協同病院事件など),後者は生存のための最低限の補液などをきちんとしたうえでというような条件のもと罪に問われないという違いがあります.

自力では呼吸できない人の人工呼吸器を止めた というのは状況によるのですが,複数の医師が終末期である(回復の見込みがない)と判断している場合,罪に問われていません.

川崎協同病院のSさんが殺人罪は不当だと言っていますが,わたしは全然不当ではないと思っています.
確か筋弛緩剤を使ってましたので.積極的安楽死はすべて有罪になります.
このあたりの線引きをまったく知らずに,『いい先生』という仮面をかぶり,一線を越えたのであれば処罰されて当然です.
我々医師は命を扱っています.
そういう現場に立つには矜持だけでなく,どのような状況になっても判断が揺るがない自分を作るしかありません.
それでは,どうしたらそういう自分が作れるのか?というとこれはちゃんとお勉強して,正しい知識と論理的思考力を身に着け
感情に流されないようになるしかありません.

よく医療従事者から かわいそう という言葉を聞きますが,わたしは 馬鹿者! って言ってましたよ.
だって かわいそう は単なる主観なので.感情移入してるんです.
その状態で冷静な判断は出来ません.プロとして失格です.

ほかにも

着床前診断と出生前診断
ヒト受精胚とヒトクローン胚

何が道徳的に倫理的に重要な違いであるかという問題は,どのような倫理的規則を用いるのがふさわしいかという問題となります.

顔つきが異なる人は,異なった仕方で扱え

これは,倫理に反する差別的なものと通常受け止められるでしょう.

各人の功罪に応じて異なった仕方で扱え

倫理的規則として一般に認められているとおもいますが.
医療資源の配分の文脈でこの規則は適用できるのでしょうか???

80歳過ぎたら社会的役割は少ないと推測されるので,一人あたりの医療費は年間10万円までとしましょう,など.ありえる??

この規則を特定の事例に適応するのがふさわしいかどうかは,十分な検討が必要となります.

思考実験 thought experiments
想像力を働かせて頭の中で行う推論を思考実験といいます.
わたしはこの思考実験が大好きで,ついいろいろやってしまいます.
倫理的判断における一貫性の要求をテストするために用いられる手法です.

終末期患者の自発的要請による安楽死を支持する議論で用いられる思考実験

事故を起こしたトラックの運転手が炎の噴き出すトラックから抜け出せない.彼が助かる道はなく,間もなく焼死することは確実.運転手の友人がトラックの近くいて,その友人はたまたま銃を持っており射撃の名手.運転手が友人に自分を撃ち殺してくれと懇願.焼死するより撃たれて死んだほうが苦痛は少なくて済むと推察される.

法的考慮を度外視してこの問題を大変純粋に倫理的に考えてみましょう.

この友人は銃で運転手を撃って楽に死なせてやるべきだと考える人!
あなたは終末期の患者の自発的要請による安楽死も,トラックの事例との間に道徳的に重要な違いを指摘できない限りは認めるべきだと論じるのでしょう.

3 視点の公平性

倫理的判断の公平性impartiality
正当な理由がない限り,自分や自分と親しい者の利益だけでなく,他の人の利益も平等に配慮しなければならないということをいいます.
これが倫理的思考において求められる理由は,少なくとも二つ存在します.

・道徳的に重要な違いがない限り,自分や自分と親しい者を他の人々と異なる仕方で扱うのは倫理的判断の一貫性の要求に反する
・現実的には倫理的判断とそれに基づいた行為は,しばしば自分を含めた関係者全員の利益に影響を与えるものであるから,十分な理由なしに自分の利益を他人の利益より優先するような判断は他から認められない.

より公平な視点に立つためにしばしば提案される方法を二つご紹介しましょう.

想像上の立場交換
想像力を働かせて,他人の立場に立った場合のことを考える方法.
しかし,これだけでは倫理的判断の公平性の確保は不十分.
なぜなら,たとえ公平であろうとしても,人は他人のことより自分のことをよく知っているため,自分の利益をより重視した判断となりがちであるから.

ダイアローグ
実際に他者と対話するという方法.
対話を通じて,自分の倫理的判断に不当な偏りがないかどうかや,事実誤認の有無をよくチェックできるし,他人の欲求や価値観をより正確に理解することにもつながる.
ただし,対話に参加する者同士が,相手の意見を自分の意見と同じくらい公平に尊重する用意がなければ実りある対話は実現しない.

わたしはよく,いろんな人と対話して自分の誤りがないか確認しています.
たくさんつぶやくのもその一環です.(笑)

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いかがでしたか?

みなさんもテレビに惑わされないように,ロジカルシンキングをしましょう!

それでは,今回はこの辺で.

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

この記事の著者:医師・仲田洋美の保有資格

医籍登録番号 第371210号
麻酔科標榜医 厚生労働省医政発第1017001号 麻 第26287号
日本内科学会 認定内科医 第19362号
日本内科学会 総合内科専門医 第7900号
日本プライマリ・ケア連合学会 指導医 第2014-1243号
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医 第1000001号
臨床遺伝専門医制度委員会認定 臨床遺伝専門医 第755号
日本感染症学会認定 インフェクションコントロールドクター ID3121号
日本化学療法学会 抗菌化学療法認定医 第J-535号

見ての通り、感染症専門医ではありませんが、感染症に関する二つの資格は一応持っているのと、「遺伝子検査」の専門医でもあります。
あと、この凝り性な性格でお勉強したので、通常の内科専門医よりは断然詳しいと思います。

間違っているところがあったらお知らせください。

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