目次
胎動カウントとは、赤ちゃんの動き(胎動)を決まった回数だけ数え、かかった時間を記録して、その子のふだんの動き方を知る方法です。日本では「10回感じるまでの時間を測る」10カウント法がよく使われ、妊娠28週前後から始める病院が多くなっています。ただし、何分以内なら正常という全員共通の基準はありません。大切なのは毎日の記録を「その子のいつもの動き」と比べることで、明らかに減った・止まったと感じたら、次の健診を待たずにかかりつけの産婦人科へ連絡します。この記事では、始める時期、数え方、平均時間の考え方、連絡の目安を、英国の診療ガイドラインや大規模研究をもとに解説します。
Q. 胎動カウントはいつから、どうやって、何分かかれば大丈夫ですか?
A. 胎動をはっきり感じるようになったら始めてよく、多くの病院は妊娠28週前後からを勧めています。赤ちゃんがよく動く時間帯に横向きで横になり、10回動くまでの時間を記録します。ノルウェーの1,786人の研究では、10回にかかった時間は平均約10分でした。何分なら異常という一律の線は決まっておらず、いつもより明らかに時間がかかる、動きが弱い・止まったと感じたときは、すぐにかかりつけの産婦人科へ連絡してください。
- ➤いつから → 胎動を感じ始めたら。多くの病院は妊娠28週前後から
- ➤やり方 → 横向きで横になり、10回動くまでの時間を毎日記録する
- ➤平均時間 → 平均は約10分。数分で終わることも珍しくない
- ➤連絡の目安 → 数字より「いつもと違う」。減った・止まったら当日すぐ
1. 胎動カウントとは?目的とわかること
胎動カウントとは、お母さんが感じる胎動の回数を、決まった方法で数えて記録することです。英語では fetal movement counting、または kick counting(キックカウント)と呼ばれます。妊婦健診では超音波検査や胎児心拍数モニタリングで赤ちゃんの様子を確かめますが、健診は数週間おきにしかありません。健診と健診のあいだ、赤ちゃんの様子をいちばん身近で感じ取れるのは、お腹の中の動きを毎日感じているお母さん自身です。
胎動が医学的に重視されるのは、赤ちゃんの元気さと動きのあいだにつながりがあるためです。胎盤からの酸素や栄養の受け渡しがうまくいかなくなると、赤ちゃんは体力を節約するように動きを減らすと考えられています。英国産科婦人科学会(RCOG)の2011年版ガイドラインは、死産を経験した女性の55%が、診断の前に胎動の減少を感じていたという報告を紹介しています[1]。胎動の変化は、お母さんが自分で気づくことのできる数少ないサインのひとつです。
10カウント法と、時間を決めて数える方法
胎動カウントには、大きく分けて「決まった回数を数えて時間を測る方法」と「決まった時間内の回数を数える方法」の2種類があります。日本の病院で広く使われているのは前者の10カウント法で、赤ちゃんが10回動くまでに何分かかったかを記録します。英語圏では count-to-ten(カウント・トゥ・テン)と呼ばれ、ノルウェーの大規模研究でもこの方法が使われました[2]。
10カウント法が多く使われているのは、続けやすいからです。赤ちゃんがよく動いていれば数分で終わり、毎日の負担が小さくて済みます。胎動カウントの研究をまとめたコクランレビュー(複数の臨床試験を統合して評価する国際的な系統的レビュー)でも、10カウント法は、1日に何度も長時間数える方法より、妊婦さんがきちんと続けられたと報告されています[3]。
一方の「時間を決めて数える方法」は、たとえば1時間や2時間のあいだに何回動いたかを数えるものです。病院によっては、こちらの方法や独自の記録表を使うところもあります。どちらが正しいということではないので、通っている病院から指示がある場合は、その方法に合わせてください。大事なのは、同じ方法で毎日続けて、ふだんの値と比べられるようにしておくことです。
💡 用語解説:胎動(たいどう)
胎動とは、お腹の中の赤ちゃんが手足を伸ばしたり、体の向きを変えたり、しゃっくりをしたりする動きのことです。超音波で見ると妊娠初期から動いていますが、赤ちゃんが小さいうちはお母さんには伝わりません。子宮の壁に動きが届くほど赤ちゃんが大きくなると、「ポコッ」「グニョ」といった感覚として感じられるようになります。
胎動カウントでわかること・わからないこと
胎動カウントでわかるのは、「その子のいつもの動き方」と、そこからの変化です。毎日記録していると、何時ごろによく動くか、10回にどのくらいかかることが多いかがわかってきます。この「いつも」がわかっていると、動きが減ったときに気づきやすくなります。コクランレビューでは、胎動カウントによって妊婦さんの不安がやわらいだという結果も示されています[3]。
ただし、胎動カウントには限界もあります。胎動カウントを続けることで死産が減るかどうかは、大規模な研究でもはっきりした効果が確かめられていません。コクランレビューは、5つのランダム化比較試験(参加者71,458人)を検討し、日常的に胎動を数えることを標準にするだけの根拠は十分でないと結論づけています[3]。
英国とアイルランドで約40万件の妊娠を対象に行われたAFFIRM試験(アファーム試験)では、妊婦さんに胎動減少の大切さを伝え、病院側の対応も統一する取り組みを導入しました。その結果、死産は出産1,000件あたり4.40件から4.06件に下がったものの、統計的にはっきりした差ではありませんでした(調整オッズ比0.90、95%信頼区間0.75〜1.07)。一方で、分娩誘発は35.8%から40.7%に、帝王切開は25.5%から28.3%に増えています[4]。
こうした結果から、2011年版を改訂した英国の最新ガイドラインは、決まった回数を使って正式に数える方法を勧めるだけの根拠は十分でないとしたうえで、胎動が減った・止まったと感じたら医療機関に報告するよう求めています[5]。胎動カウントは赤ちゃんの状態を診断する検査ではなく、変化に早く気づくための「自分の物差し」と考えるのが現実的です。
🩺 院長コラム【数字は「その子との比較」に使う】
胎動カウントについて調べると、「○分以内なら大丈夫」という数字があちこちに出てきます。けれども大規模な研究の結果を見ると、全員に当てはまる正常値を決めるのは難しいというのが現在の医学の立場です。
胎動カウントの記録は「ほかの妊婦さんとの比較」ではなく、「昨日までのその子との比較」に使うものだと考えています。平均より時間がかかる赤ちゃんもいれば、いつも数分で終わる赤ちゃんもいます。その子なりのいつもの動きから外れたときに、迷わず連絡できること。そのための記録だと考えてください。
2. 胎動カウントはいつから始める?
胎動カウントは、胎動をはっきり感じるようになったら始めてかまいません。多くの病院は、妊娠28週前後から毎日続けるよう勧めています。妊娠28週は、日本産科婦人科学会の区分で妊娠後期が始まる時期にあたります。病院から時期の指示がある場合は、その指示に従ってください。
胎動を感じ始める時期(初産と経産婦の違い)
ほとんどの妊婦さんは、妊娠20週ごろまでに胎動を感じるようになります。2人目以降の経産婦さんでは、早い人で妊娠16週ごろから感じることがあります。英国産科婦人科学会のガイドラインも、多くの女性は妊娠20週までに胎動に気づき、経産婦では16週という早い時期に気づく人もいると説明しています[1]。
経産婦さんのほうが早く気づきやすいのは、一度胎動を経験していて、腸の動きなどと区別しやすいためと考えられています。初めての妊娠では、最初の胎動は「お腹の中で泡がはじけるような感じ」「魚が泳いでいるような感じ」と表現されることが多く、胎動だと気づかないまま過ぎることも少なくありません。
胎動の感じ方には、胎盤の位置も関わります。胎盤が子宮の前側(お腹側)にある前壁胎盤では、胎盤がクッションの役割をするため、胎動が伝わりにくく、気づく時期が遅くなることがあります。体格やお腹の脂肪の厚さによっても感じ方は変わります。気づく時期が周りの人より遅くても、それだけで心配する必要はありません。胎動を感じ始める時期の詳しい目安は、胎動はいつから感じる?で解説しています。
28週前後から始める病院が多い理由
妊娠28週前後から胎動カウントを勧める病院が多いのは、この時期から胎動がはっきりしてきて、毎日の比較がしやすくなるためです。英国産科婦人科学会の2011年版ガイドラインも、胎動の減少について迷ったときの目安として、妊娠28週以降の数え方を示していました[1]。ノルウェーの研究でも、妊婦さんは妊娠28週から出産まで毎日10カウント法で記録しています[2]。
妊娠20週台の前半は、赤ちゃんがまだ小さく、子宮の中を自由に動き回っています。動きが子宮の壁に届かないことも多いため、同じ赤ちゃんでも日によって感じ方が大きく変わり、数えた値が安定しません。妊娠が進んで赤ちゃんが大きくなるにつれて、動きはお母さんに伝わりやすくなり、毎日の記録を比べやすくなります。
また、胎動の回数は妊娠32週ごろまで増えて、その後はほぼ一定になることが知られています[1]。赤ちゃんの眠りと目覚めのリズムもこのころまでにはっきりしてくるので、「よく動く時間帯」をつかみやすくなります。妊娠後期の体の変化や過ごし方は妊娠後期の症状と気をつけることにまとめています。
3. 胎動カウントのやり方(10カウント法)
10カウント法では、赤ちゃんがよく動く時間帯に横向きで横になり、最初の胎動を感じた時刻から、10回目を感じた時刻までを記録します。道具は時計と記録表だけで、毎日同じような時間帯に行うと、日ごとの比較がしやすくなります。
準備:時間帯と姿勢
時間帯は、赤ちゃんがいつもよく動く時間を選びます。夕方から夜にかけてよく動く赤ちゃんが多いので、その時間に行う人が多くなっています。食事のあとや、家事を終えて落ち着いた時間など、毎日同じくらいの時間に確保できるタイミングを決めておくと続けやすくなります。テレビやスマートフォンから離れて、お腹の動きに意識を向けられる環境を整えてください。
姿勢は、横向きに寝るのがおすすめです。英国産科婦人科学会のガイドラインによると、妊婦さんは横になっているときにいちばん胎動を感じやすく、座っているときはそれより少なく、立っているときがもっとも少なくなります[1]。左右どちらを下にするかは、感じやすいほうでかまいません。胎盤の位置や赤ちゃんの向きによって感じ方が変わるので、途中で向きを変えてもよいでしょう。
一方、妊娠後期に長く仰向けで横になるのは避けてください。仰向けになると、大きくなった子宮が背中側の太い血管(下大静脈)を圧迫し、お母さんの血圧が下がったり気分が悪くなったりすることがあります。複数の研究をまとめた解析では、妊娠28週以降に仰向けで寝つく習慣が、左を下にして寝つく場合と比べて後期の死産と関連していたと報告されています(調整オッズ比2.63)[6]。胎動カウントのときも、眠るときも、横向きを基本にしてください。胎動の位置や感じやすい姿勢は胎動の位置はどこが正常?で詳しく解説しています。
10カウント法の手順
手順は4つです。横になる、最初の胎動で時計を見る、10回まで数える、かかった時間を記録する、の順に進めます。横になった時刻から測り始めるのではなく、「最初の胎動を感じた時刻」を開始時刻にするのがポイントです。
1つめは、赤ちゃんがよく動く時間帯に、横向きでリラックスした姿勢をとることです。2つめは、最初の胎動を感じたら、それを1回目として時刻をメモすることです。3つめは、はっきり感じた動きを1回ずつ数え、10回目を感じた時刻をメモします。4つめに、開始から10回目までにかかった時間を記録表に書き込みます。
胎動カウントの途中で赤ちゃんが眠っている時間帯に当たり、一時的に動きを感じにくいことはあります。ただし、いつもより胎動が明らかに少ない・弱い、または動きを感じないと本人が感じている場合は、カウントを続けて様子を見るのではなく、かかりつけの産婦人科へ連絡してください。胎動減少時の考え方は、第4章と第5章で説明します。
数える動き・数えない動き
数えるのは、「今、赤ちゃんが動いた」とはっきりわかる動きだけです。キック、パンチのような突き上げ、体をぐるりと回すような大きな動きを数えます。迷う動きは数えなくてかまいません。毎日同じ基準で数えることが大切なので、自分なりの基準を決めたら変えないようにします。
👶 胎動カウントで数える動き・数えない動き
| 動きの種類 | 数え方 | 考え方 |
|---|---|---|
| キック・パンチ(ポコッ) | 1回と数える | はっきりわかる代表的な胎動 |
| ぐるりと回る・グニョっと動く | ひと続きで1回 | 長く続く大きな動きも1回として数える |
| 「ポコポコポコ」と連続する動き | ひと続きで1回 | 間をおかずに続く動きはまとめて1回 |
| 「ポコ…ポコ…ポコ」と間があく動き | それぞれ1回(この例なら3回) | はっきり区切れていれば別々に数える |
| しゃっくり(規則的なピクピク) | 数えない | 一定のリズムで続く動きは手足の運動とは別 |
| 胎動かどうかわからない動き | 数えない | 腸の動きなどと区別できないものは除く |
※病院から数え方の指示がある場合は、その方法を優先してください。
赤ちゃんのしゃっくりは、ピクッ、ピクッと規則正しいリズムで数分から長いときには数十分続くのが特徴です。手足を動かす胎動とは仕組みが違うため、胎動カウントでは数えません。リズムが一定かどうかで見分けるとわかりやすいでしょう。しゃっくりと胎動の見分け方は胎児のしゃっくりと胎動の違いで詳しく紹介しています。
始めたばかりのころは、どれを1回と数えればよいか迷うものです。数日続けると、赤ちゃんの動きのパターンがわかってきて、数える基準も自然に定まってきます。小さな動きでも、お母さんがはっきり感じたものは1回として数えてかまいません。
記録のつけ方と記録表の例
記録表には、日付、開始時刻、10回目の時刻、かかった時間を書き、気づいたことを一言添えておきます。病院から胎動記録表を渡されている場合はそれを使い、ない場合はノートや手帳でも十分です。スマートフォンの胎動カウントアプリを使う人もいます。どの方法でも、続けやすいものを選んでください。
📝 胎動カウントの記録表の例
| 日付 | 開始時刻 | 10回目の時刻 | かかった時間 | メモ |
|---|---|---|---|---|
| ○月1日 | 21:05 | 21:13 | 8分 | 夕食後・左向き |
| ○月2日 | 21:10 | 21:21 | 11分 | 右向きのほうが感じやすい |
| ○月3日 | 21:00 | 21:06 | 6分 | よく動いた |
※数値は記入方法を示すための例で、正常値を示すものではありません。
記録を続けていると、自分の赤ちゃんの「いつもの時間」が見えてきます。受診したときにこの記録を見せると、医師や助産師が変化の様子をつかみやすくなります。連絡が必要かどうか迷ったときにも、記録が判断の手がかりになります。
4. 胎動カウントの平均時間は?
10カウント法で10回数えるのにかかる時間は、大規模な研究で平均約10分でした。ただし個人差が大きく、「何分以内なら正常」という全員共通の基準は決まっていません。平均はあくまで集団の目安で、自分の赤ちゃんの値は、自分の記録と比べて判断します。
平均と目安の時間
ノルウェーで1,786人の妊婦さんが妊娠28週から出産まで毎日記録した研究では、10回にかかった時間の平均は約10分(標準偏差9分)でした[2]。標準偏差が9分ということは、数分で終わる日も、20分以上かかる日も、ふつうに起こりうるということです。この研究では、かかる時間は赤ちゃんの性別や、初産か経産かによる差がありませんでした[2]。
インターネット上には「○分以内が正常」「○分以上なら受診」といった数字が数多く見られますが、その多くは出典がはっきりしません。英国産科婦人科学会の2011年版ガイドラインは、胎動が減ったかどうか迷うときの目安として「2時間横になって集中し、10回以上の動きを感じなければ連絡する」という基準を示していました[1]。しかし改訂された最新版は、決まった回数で正式に数える方法を勧めるだけの根拠はないとしています[5]。
そのため、この記事では「○分を超えたら異常」という線は示しません。通っている病院が独自の目安を決めている場合は、その指示に従ってください。病院からとくに指示がない場合は、毎日の記録から自分の赤ちゃんのいつもの時間をつかみ、それより明らかに長くかかる日が続く、あるいは急に長くなったときに連絡するのが基本です。
5分以内で終わるのは早すぎる?
10回が5分以内で終わるのは、早すぎて心配な状態ではありません。赤ちゃんがよく動いている時間帯に数えれば、数分で10回に達するのはよくあることです。ノルウェーの研究でも平均は約10分で、その半分程度の時間で終わる日は珍しくありません[2]。
「胎動が多すぎる」「激しすぎる」ことを心配する方もいますが、よく動くことは基本的に赤ちゃんが元気に過ごしているしるしと考えられています。胎動カウントで注意を払いたいのは、動きが多いことよりも、ふだんより減った、弱くなった、止まったという変化のほうです。
ただし、いつもと比べて動き方の性質が急に変わり、たとえば激しくけいれんするような動きが続いたあとにぱったり静かになった、というように「いつもと違う」と感じた場合は、迷わずかかりつけの産婦人科に相談してください。回数が多いか少ないかよりも、ふだんとの違いに気づくことが大切です。
始めると動かない・30分を超えるとき
胎動カウントを始めたとたんに動かなくなるのは、多くの場合、赤ちゃんが眠っている時間帯に当たったためです。お腹の中の赤ちゃんにも眠りと目覚めのリズムがあり、英国産科婦人科学会のガイドラインによると、健康な赤ちゃんの眠りのサイクルはふつう20〜40分で、90分を超えることはまれです[1]。
胎児には睡眠周期があるため、短時間だけ動きを感じにくいことはあります。しかし、「いつもより胎動が少ない・弱い」「動きを感じない」と本人が感じている場合は、姿勢を変えたり時間をおいたりして自己判断で様子を見続けず、かかりつけの産婦人科へ連絡してください。経過時間だけで胎児の状態を判断することはできません。
いつもと比べて明らかに動きが少ない、ふだんなら感じる胎動をほとんど感じない、または胎動が止まったと感じる場合は、自己判断で様子を見続けないでください。妊娠28週以降で胎動の減少・消失を自覚した場合は、翌日まで待たず、できるだけ早くかかりつけの産婦人科へ連絡することが重要です。[5]
臨月の胎動カウント
臨月に入ると胎動は自然に減る、とよく言われますが、医学的には正しくありません。胎動の回数は妊娠32週ごろから横ばいになり、妊娠後期の終わりに向けて減ることはないとされています[1]。ノルウェーの研究でも、10回にかかる時間は妊娠後期を通じて2分も変わらず、出産が近づくと胎動が減るという考え方は支持されませんでした[2]。
臨月の赤ちゃんは子宮の中でスペースが狭くなり、頭が骨盤に下がってくるため、大きく体を回すような動きは少なくなります。その代わりに、手足でぐっと押す、もぞもぞと動くといった動きが中心になり、感じ方が変わったと思う人は多いでしょう。しかし動きの「種類」が変わっても、動きの「量」が大きく減るわけではありません。
臨月だから動きが少ないのは当たり前、と考えて様子を見るのは避けてください。陣痛が始まってからも胎動を感じることがあります。臨月でも胎動カウントを続け、いつもより明らかに減ったと感じたら、出産間近であっても遠慮せずに連絡してください。
5. かかりつけの産婦人科にすぐ連絡する目安
胎動がいつもより明らかに減った、弱くなった、止まったと感じたら、次の健診を待たず、その日のうちにかかりつけの産婦人科へ連絡してください。夜間や休日であっても、分娩を扱う病院には連絡がつく窓口があります。胎動の減少で連絡をすることは、医療機関にとってごく普通のことです。
数字より「いつもと違う」を優先する理由
連絡するかどうかの判断では、「○分以内か」という数字より、「いつもと違うか」というお母さんの感覚を優先してください。英国の最新ガイドラインも、決まった回数を基準にするより、胎動の減少や消失を感じたら報告するよう求めています[5]。
数字だけを頼りにすると、2つの問題が起こります。ひとつは、もともと時間がかかる赤ちゃんの場合、平均より長いというだけで必要以上に不安になることです。もうひとつは、いつもは数分で終わる赤ちゃんの動きが大きく減っていても、「まだ基準の時間内だから」と見逃してしまうことです。「基準の時間内だから大丈夫」と考えて連絡をためらうことは避けてください。
AFFIRM試験の結果が示すように、胎動を意識するだけで死産を確実に防げるわけではありません[4]。それでも、胎動の変化は赤ちゃんの状態が悪くなっているときに先に現れることがあるサインです[1]。連絡して異常がなかったとしても、それは無駄な受診ではなく、確認できたこと自体に意味があります。
すぐ連絡すべきサイン
次のような場合は、時間帯にかかわらず、すぐにかかりつけの産婦人科へ電話で連絡してください。連絡するときは、妊娠週数、いつから胎動が減ったか、胎動カウントの記録、ほかの症状の有無を伝えると、病院側が状況をつかみやすくなります。
🚨 すぐに連絡してほしいサイン
・胎動がまったく感じられない
・いつもと比べて明らかに胎動が少ない、弱い状態が続いている
・姿勢を変えるなど仕切り直しても、いつもの時間で10回に届かない
・胎動の減少に加えて、強い腹痛、お腹がずっと硬く張ったまま、性器出血がある
・破水した、または破水かもしれない水っぽいものが出ている
胎動の減少に強い腹痛や出血、お腹の張りが続く状態が重なる場合は、胎盤が出産前にはがれてしまう常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)のような、急いで対応が必要な病気が隠れていることがあります。この場合は電話で症状を伝え、病院の指示に従ってすぐに受診してください。
また、胎動が減ったと感じたときに、家庭用の心音計などで自分で心拍を確かめて様子を見るのは避けてください。心拍が聞こえても、それだけで赤ちゃんが元気だとは判断できないためです。胎動が少ないと感じたときの考え方は、胎動が少ないと心配な方へでも詳しく解説しています。
連絡すると病院で何をするか
胎動の減少で受診すると、多くの場合、胎児心拍数モニタリング(ノンストレステスト、NST)と超音波検査で赤ちゃんの状態を確かめます。どの検査をどの順で行うかは、妊娠週数やほかの症状、病院の方針によって変わります。
ノンストレステストは、お母さんのお腹にセンサーをつけて、赤ちゃんの心拍数と子宮の収縮を20〜40分ほど記録する検査です。赤ちゃんが元気なときは、体を動かしたときに心拍数が一時的に上がる反応(一過性頻脈)が見られます。この反応がきちんと出ているかどうかで、赤ちゃんの状態を判断します。
超音波検査では、赤ちゃんの動き、羊水の量、体の大きさ(発育)、必要に応じてへその緒や脳の血流などを確認します。胎動の減少は、赤ちゃんの発育が遅れている状態(胎児発育不全)と関係していることもあるため、発育の確認は大切な項目です。胎児超音波検査で何がわかるかは、別の記事で詳しく解説しています。検査で問題がなければ、ふだんどおりに胎動カウントを続け、また減ったと感じたら同じように連絡します。
💡 用語解説:ノンストレステスト(NST)
ノンストレステストは、陣痛などのストレスがかかっていない状態で、赤ちゃんの心拍数の変化を記録する検査です。お腹に2つのセンサーをつけ、1つで赤ちゃんの心拍数、もう1つで子宮の収縮を測ります。赤ちゃんが動いたときに心拍数が上がる反応があれば、その時点では元気に過ごしていると考えられます。痛みはなく、妊婦健診でも広く行われています。
🩺 院長コラム【「気のせいかも」で連絡をためらわないで】
胎動が減った気がするけれど、病院に電話するほどのことではないかもしれない。そう迷う方は多いと思います。とくに夜間や休日は、遠慮が先に立ちやすいものです。
けれども胎動の変化は、お母さんにしか気づけない情報です。病院で確認して何もなければ、それは「異常がないことがわかった」という結果です。迷ったときは連絡する、という方針で構わないと考えています。そのためにも、ふだんの記録をつけておくことに意味があります。
6. 遺伝の視点:胎動の強弱と先天性の病気
胎動の強さや回数だけで、赤ちゃんに染色体や遺伝子の病気があるかどうかを見分けることはできません。一方で、胎動がとても乏しく、羊水が多すぎる、関節が固まっているといった所見が重なる場合には、生まれつきの神経や筋肉の病気が手がかりとして検討されることがあります。ここでは、臨床遺伝専門医の立場から、胎動と遺伝の関係を整理します。
胎動の強さで染色体異常はわからない
「胎動が激しいとダウン症」「胎動が少ないと障害がある」といった話を目にすることがありますが、胎動の感じ方から染色体異常を判断することはできません。胎動の感じ方は、赤ちゃんの性格のような個性、胎盤の位置、羊水の量、お母さんの体格など、さまざまな要素で変わるからです。
染色体の数の異常があるかどうかは、胎動ではなく検査で調べます。妊娠中に赤ちゃんの染色体を調べる方法には、お母さんの血液を使うNIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)や、羊水検査などがあります。胎動の強さとダウン症の関係については、胎動が激しいのはダウン症のサイン?で詳しく取り上げています。
胎動が乏しいときに考える先天性の神経筋疾患
赤ちゃんの筋肉や、筋肉を動かす神経に生まれつきの病気があると、お腹の中にいるときから動きが少なくなることがあります。動きが少ない状態が続くと、赤ちゃんが羊水を飲み込む量も減るため羊水が増えすぎたり(羊水過多)、関節を動かさないために関節が固まったり(関節拘縮)することがあります。
そのひとつが、筋強直性ジストロフィー(きんきょうちょくせいジストロフィー)の1型(DM1)の先天型です。DM1は、DMPK遺伝子の中にある3つの塩基(CTG)のくり返しが長く伸びることで起こる病気で、米国の遺伝性疾患データベース GeneReviews は、先天型DM1は生まれる前から羊水過多と胎動の減少として現れることが多いと説明しています。また、先天型を受け継ぐときに長いくり返しを伝える親は、ほとんどが母親です[7]。
もうひとつが、脊髄性筋萎縮症(せきずいせいきんいしゅくしょう、SMA)のなかで最も重い0型です。0型は生まれる前から発症し、胎動の減少や関節拘縮が見られます。SMAは常染色体潜性(劣性)遺伝の病気で、両親がともに保因者の場合、子どもが発症する確率は妊娠ごとに約25%です[8]。このほか、先天性筋ジストロフィーなども、出生前に羊水過多などで気づかれることがあります。
ただし、これらはいずれもまれな病気です。胎動が少ないと感じた赤ちゃんの多くは、検査で問題が見つからなかったり、別の原因が見つかったりします。胎動の減少だけで遺伝の病気を疑う必要はなく、まずはかかりつけの産婦人科で、超音波検査などで赤ちゃんの状態を確かめることが先になります。
💡 用語解説:羊水過多(ようすいかた)
羊水過多とは、子宮の中の羊水が正常より多い状態です。羊水は赤ちゃんが飲み込んだり尿として出したりすることで量が保たれているため、赤ちゃんが羊水をうまく飲み込めないと増えすぎることがあります。原因はお母さんの糖尿病や原因がはっきりしないものなどさまざまで、赤ちゃんの消化管の病気や、筋肉・神経の病気が見つかることもあります。超音波検査で羊水の量を測って判断します。
NIPTでわかること・わからないこと
NIPTは、お母さんの血液に含まれる赤ちゃん由来のDNAを調べ、染色体の数の異常などの可能性を評価する検査です。胎動カウントとは、わかることも、行う時期も違います。NIPTは妊娠の比較的早い時期に受ける検査で、胎動カウントは妊娠後期に赤ちゃんの「今の元気さ」の変化に気づくための方法です。どちらか一方で、もう一方の役割を代わりにすることはできません。
また、NIPTは検査ごとに調べる対象が決まっていて、対象に含まれない病気はわかりません。前の章で取り上げたような神経や筋肉の病気は、原因となる遺伝子の変化を個別に調べる遺伝学的検査で診断されるのが一般的です。NIPTで「陰性」だったとしても、胎盤の働きの低下など、染色体とは関係のない理由で妊娠後期に赤ちゃんの状態が悪くなることはあります。NIPTが陰性でも臨月で死産が起こる原因でも解説しているように、検査の結果にかかわらず、妊娠後期の胎動の変化には注意を払い続けてください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 胎動カウントは1日に何回やればいいですか?
1日1回、毎日同じくらいの時間帯に行えば十分です。回数を増やすより、同じ方法で毎日続けて、ふだんの値と比べられるようにすることが大切です。病院から回数の指示がある場合は、その指示に従ってください。
Q2. 胎動カウントは何時ごろにやるのがいいですか?
赤ちゃんがいつもよく動く時間帯に行います。夕方から夜にかけてよく動く赤ちゃんが多いので、その時間に行う人が多くなっています。毎日同じくらいの時間に行うと、日ごとの比較がしやすくなります。
Q3. 胎動カウントの途中で寝てしまったらどうすればいいですか?
その回の記録は使わず、目が覚めてから改めて最初から数え直してください。横になってリラックスすると眠くなりやすいので、眠気の強い時間帯を避ける、照明を少し明るめにするといった工夫も役立ちます。
Q4. 動かないときにお腹をポンポンして起こしてもいいですか?
軽く触れたり声をかけたりすること自体は問題ありませんが、刺激して動いたかどうかで赤ちゃんの元気さを確かめられるという医学的な根拠はありません。いつもより明らかに動きが少ない・弱い、または動きを感じない場合は、刺激して反応を見ることで様子を見続けず、かかりつけの産婦人科へ連絡してください。
Q5. 双子の場合、胎動カウントはどうすればいいですか?
双子では、どちらの赤ちゃんの動きかを区別するのが難しいため、確立した数え方はありません。健診で赤ちゃんの位置を確認したうえで、それぞれがよく動く場所の動きを意識しておく方法がとられることがあります。数え方は通っている病院の指示に従ってください。
Q6. 胎動カウントはやらないといけませんか?
決まった回数で正式に数えることが必須だという根拠は、現時点では十分ではありません。大切なのは、赤ちゃんのふだんの動き方を知っておき、明らかに減った・止まったと感じたときにすぐ連絡することです。胎動カウントは、そのための記録の方法のひとつです。病院から記録を求められている場合は、その指示に従ってください。
まとめ
胎動カウントは、赤ちゃんが決まった回数動くまでの時間を記録して、その子のいつもの動き方を知る方法です。日本では10カウント法が広く使われ、多くの病院は妊娠28週前後からの記録を勧めています。横向きで横になり、最初の胎動から10回目までの時間を毎日記録します。仰向けで長く横になることは避けてください[6]。
10回にかかる時間は平均約10分ですが個人差が大きく[2]、「何分以内なら正常」という全員共通の基準はありません。胎動は臨月になっても大きく減るものではなく[1]、いつもより明らかに減った、弱くなった、止まったと感じたときは、次の健診を待たずにかかりつけの産婦人科へ連絡してください[5]。胎動の強さで染色体異常はわかりませんが、胎動が乏しく羊水過多などを伴う場合には、まれに先天性の神経筋疾患が関わることがあります[7][8]。
🧬 NIPT(出生前検査)をお考えの方へ
ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医がNIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)を行い、検査前後の説明から結果の解釈まで担当しています。妊娠中に赤ちゃんの染色体について調べることを検討している方は、検査の内容と流れをご確認ください。
なお、胎動の減少やお腹の張りなど、妊娠経過についてのご相談はミネルバクリニックではお受けしていません。かかりつけの産婦人科へご連絡ください。
参考文献
- [1] Royal College of Obstetricians and Gynaecologists. Reduced Fetal Movements. Green-top Guideline No. 57. 2011. [RCOG]
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