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多嚢胞性卵巣症候群の治療方法|診断から妊娠の希望に応じた治療を詳細解説

皆さんは多嚢胞性卵巣症候群という病気をご存じですか?この病気は「たのうほうせいらんそうしょうこうぐん」と読みます。

近年、女性の社会の進展、晩婚化に伴った不妊症に悩まれるカップルの増加が問題となっていますが、この多嚢胞性卵巣症候群が不妊症の原因となることがあります。

加齢による身体機能の低下が原因となることはもちろん、さまざまなストレス環境や生活習慣の乱れが結びつくこともあります。

この記事では多嚢胞性卵巣症候群がどのような病気であるのかを確認し、多嚢胞性卵巣症候群がどのような原因で生じるのか、発症した際にはどのような診断が行われ、どのような治療が施されるのかに関してご説明してまいります。ぜひ最後までご覧になってください。

多嚢胞性卵巣症候群とは

疑問点のイメージ画像

「多嚢胞性卵巣症候群」とは、ホルモンバランスの乱れなどを原因として、①卵巣内の卵胞が通常よりも多く成熟する、②卵胞の成熟が十分に行われず途中で止まってしまう、③必要のなくなった卵胞が黄体へと変化せず卵巣内に留まる、といった症状が生じて月経のサイクルに乱れが生じるようになる症状を表しています。

多嚢胞性卵巣症候群は、「卵胞」や「黄体」を含めた、月経サイクルが正常に回るために必要である要素に異常が生じることで発症します。症状をより深く理解するため、次に、正常な月経サイクルの場合には、生殖器官の中でどのようなことが行われているのかを見ていきましょう。

通常の月経サイクル

月経が訪れ、次に月経が訪れるまでを1サイクルとした際の生殖器官の中では、以下のステップが踏まれています。

  • 1:卵胞・卵子の成熟
  • 2:排卵
  • 3-1:着床・妊娠
  • 3-2:月経

それぞれに関して詳しく見ていきましょう。

1:卵胞・卵子の成熟

卵巣の中にはたくさんの「原始卵胞(げんしらんほう)」と呼ばれる細胞が存在しており、この原始卵胞ひとつひとつの中に小さな卵子が1つ存在しています。この原始卵胞は女性が母親のお腹の中にいるときから、細胞分裂を通じて作られており、出生後に新たに作られるということはありません。

月経サイクルの最初のステップでは、脳の視床下部・下垂体から「卵胞刺激ホルモン」を分泌するように指令が出されます。この指令によって分泌された卵胞刺激ホルモンがきっかけとなって、卵巣内の数十個の卵胞が成熟を開始していきます。卵胞の成熟に合わせて、中にある卵子も成熟していきます。

2:排卵

数十個の卵胞が成熟を開始しますが、最終的に卵子を排出する卵胞は1つだけです。この仕組みは、成熟を進める中で卵胞が一次卵胞、二次卵胞、成熟卵胞と大きくなっていき、この過程の中で卵胞の選抜が行われているためです。

成熟が順調に行われる卵胞は他の卵胞と比較して大きくなりやすく、それに合わせて卵胞ホルモンを分泌するようになります。このホルモンの作用によって、他の卵胞の成長は更に抑制されるようになります。

そして十分に成熟した卵胞が卵子を排出します(この卵胞は「主席卵胞」とも呼ばれます)。卵巣へと排出された卵子は卵巣内を漂った後に、卵管の先端部の卵管采(らんかんさい)という器官にキャッチされて卵管へと移動していきます。

後の着床・妊娠や月経のステップと深いかかわりがあるため、前もって説明しますと、排卵することのなかった卵胞・卵子を排出した後に残った主席卵胞は「黄体」という物質へと変化していきます。

この黄体は「黄体ホルモン」というホルモンを分泌し、卵子が受精卵となった後に、着床しやすいように子宮内膜を厚くふかふかな状態にしたり、女性の体温を高く保ったりする作用を持ちます。また、赤ちゃんが産まれた後に備えて、乳腺を少しずつ発達させていく作用も持っています。

3-1:着床・妊娠

排卵された卵子が卵管にて精子と出会い受精すると、新たに受精卵が誕生します。この受精卵は細胞分裂を繰り返しながら成長していくとともに、少しずつ子宮へと移動していきます。

受精卵は細胞分裂によって、初期胚(しょきはい)、桑実胚(そうじつはい)、胚盤胞(はいばんほう:着床のための準備が整った状態にまで成長した受精卵)と成長していきます。

受精卵が子宮へとたどり着く頃には、胚盤胞にまで成長しており(受精後5日目くらいが胚盤胞まで成長する目安とされています)、黄体ホルモンの作用によって厚くなった宮内膜に潜り込みます。これが「着床」と呼ばれるものです。

受精卵が成長・移動をする背後で、前述した黄体ホルモンが子宮内の環境を整えていくことで着床の成功率はより高まるのです。

3-2:月経

排卵された卵子が受精することなく、その受精機能を失った場合には、妊娠に向けて活発となっていた卵胞ホルモンや黄体ホルモンの分泌が2週間ほどかけて緩やかになっていきます。

黄体ホルモンの分泌が落ち着くことによって、厚くなっていた子宮内膜の一部は剥がれ落ち、体内の血液と混じって体外へと排出されます。これが「月経」と呼ばれるものです。

多嚢胞性卵巣症候群の具体的な症状

多嚢胞性卵巣症候群が生じると、普段の成熟数よりも多くの卵胞が成熟する、卵胞の成熟が途中で停止する、黄体へと変化すべき卵胞が変化せずに卵巣内に留まるようになります。このように、卵巣に留まり続ける未成熟な卵胞は嚢胞(のうほう)と呼ばれます。

嚢胞があることで、次に卵胞・卵子の成熟を開始しようとしても十分な成熟が行われなくなり、排卵が起こらなくなる、無排卵月経となる、月経の周期が延びる・不規則になるといった症状が現れるようになります。

多嚢胞性卵巣症候群の原因

原因のイメージ画像

次に、多嚢胞性卵巣症候群の原因に関して見ていきましょう。

主な原因には以下のものが挙げられます。

  • ・男性ホルモンの分泌過多
  • ・女性ホルモン(卵胞ホルモン・黄体ホルモン)のバランスの乱れ
  • ・生活習慣の乱れ・外部環境要因

それぞれに関して見ていきましょう。

男性ホルモンの分泌過多

男性ホルモンには、精神を安定させるとともに向上心を高める効果や、性欲を高める効果といったプラスな側面もあり、女性の体内でも一定数分泌されています。

しかしながら、男性ホルモンの分泌があまりにも多い場合には女性の身体にとってマイナスな側面が強く現れるようになります。

具体的には、卵胞の成熟を抑制する効果や、卵胞を包む膜を厚くさせ卵子が排出しづらくするといった効果が挙げられます。これがきっかけとなって多嚢胞性卵巣症候群を引き起こすことがあります。

女性ホルモン(卵胞ホルモン・黄体ホルモン)のバランスの乱れ

前述の月経サイクルで確認したように、卵胞ホルモン・黄体ホルモンは月経のサイクルにおいて非常に重要な役割を担っています。

これらのホルモンバランスが乱れることによって、今まで正常に回っていた月経サイクルも崩れるようになり、結果的に多嚢胞性卵巣症候群が引き起こされることとなります。

生活習慣の乱れ・外部環境要因

上記で挙げた男性ホルモンの分泌過多、女性ホルモンのバランスの乱れを、更に深掘りしてみると、生活習慣の乱れやストレスなどの外部環境が原因となって、連鎖的に多嚢胞性卵巣症候群が引き起こされているということがあります。

また、多嚢胞性卵巣症候群と診断された方には、まず第一に生活習慣の改善や減量・運動療法が求められることが多いです。事実、多嚢胞性卵巣症候群を発症した肥満体質な方が、肥満を解消しただけで症状が治ったというケースもあります。肥満そのものが万病のもとであるため、健康的な生活習慣を心掛けたいですね。

多嚢胞性卵巣症候群の治療方法

カウンセリング中の医師と患者

次に、多嚢胞性卵巣症候群を発症した際には、どのような検査・診断が行われ、妊娠を希望するか否かに応じてどのような治療が行われているのかについて見ていきましょう。

診断方法

日本産婦人科学会では多嚢胞性卵巣症候群に対する診断基準として、以下を設けています。

  • ・月経異常
  • ・卵巣の多嚢胞所見
  • ・男性ホルモン血症、または卵巣刺激ホルモンの上昇を伴わない黄体ホルモンの基礎分泌量高値

これらの条件にすべて該当し、他の病気ではない場合に多嚢胞性卵巣症候群であるという診断がされます。

それぞれに関して見ていきましょう。

月経異常

以下の症状がある場合、月経異常であると診断されます。

  • ・無月経(3ヵ月以上月経がない)
  • ・無排卵周期症(排卵が伴わない月経)
  • ・稀発月経(3ヵ月間で月経はあるものの、月経周期が39日以上)

これらの症状が疑われる場合には放置なさらずに医療機関へ相談に行くようにしましょう。

卵巣の多嚢胞所見

多嚢胞性卵巣症候群では、卵巣内に多数の嚢胞が形成されている状態となっています。この状態となっているか否かを超音波検査を通じて確認し、片側の卵巣に10個以上の嚢胞が確認されると、卵巣内の多嚢胞所見という診断が下されます(この状態の卵巣は「多嚢胞性卵巣」と呼ばれます)。

男性ホルモン血症、または卵巣刺激ホルモンの上昇を伴わない黄体ホルモンの基礎分泌量高値

日本国内の場合では、男性ホルモン血症と診断されるケースは少数で、多くは黄体ホルモンの基礎分泌量高値です。

卵巣刺激ホルモンや黄体ホルモンの数値は月経の周期によって変動するものであるため、通常は月経が開始された3日目前後で基礎値の測定が行われます。

妊娠を希望する場合の治療

多嚢胞性卵巣症候群であると診断され、妊娠を希望する場合には排卵障害を改善するための治療が行われます。

具体的には以下の治療が行われます。

  • ・排卵誘発剤の使用
  • ・腹腔鏡下卵巣多孔術
  • ・耐糖能異常への治療

それぞれに関して見ていきましょう。

排卵誘発剤の使用

排卵誘発剤を用いて卵胞の成熟を促進させます。嚢胞が見られる場合であっても効果が得られる一方で、排卵誘発剤を用いることで卵巣過剰刺激症候群という副作用が生じることがあること、誘発剤の刺激が身体にも影響するなどのリスクもあるため、医師ときちんと相談するようにしましょう。

腹腔鏡下卵巣多孔術

卵巣表面に多数の穴を開けて排卵を促す手術であり、排卵誘発剤の効果を高める作用があります。卵巣に穴を開けるものの徐々に治癒されていき半年から1年ほどで元の状態へと戻るので、永続的な身体的負担ではないというメリットがある一方で、不妊症治療が長引いている場合には再度手術の必要性が出てくるといったデメリットもあります。

耐糖能異常への治療

肥満体質であるために、インスリンというホルモンに対して抵抗性が身に付き、更なるインスリンの過剰分泌(インスリン過剰症)を引き起こしているというケースもあります。インスリンの過剰分泌は男性ホルモンの分泌を増長させることとなるため、患者さんによってはこの治療が必要となることもあります。

妊娠を希望しない場合の治療

多嚢胞性卵巣症候群であると診断され、妊娠を希望しない場合には排卵誘発は行わずに、月経不順を改善するための治療が行われていきます。

具体的には以下の治療が行われます。

  • ・カウフマン療法
  • ・低用量ピル

それぞれに関して見ていきましょう。

カウフマン療法

カウフマン療法とは、正常な月経サイクルのために必要となる卵胞ホルモンと黄体ホルモンを3~6ヵ月の間、周期的に補充し、規則的な月経周期に向けて改善を促していく治療方法です。

多嚢胞性卵巣症候群が軽度である場合には有効に働くことが多いのですが、重度の場合には効果が一時的にしか得られない場合もあるため、治療的サポートだけでなく、日常的な生活改善が重要にもなってきます。

低用量ピル

低用量ピルは、カウフマン療法で用いるホルモン剤よりも女性ホルモンの含有量が少ないため、治療に伴う副作用を軽減し、長期的な服用・治療を可能とします。

加えて、多嚢胞性卵巣症候群に対する効果だけでなく、低用量ピルには月経痛や月経前症候群を和らげる効果もあるため、これらの症状によって日常の生活に支障をきたしている女性にとっては生活の質の向上も期待できます。

まとめ

前向きにほほ笑む女性

ここまで、多嚢胞性卵巣症候群がどのような病気であるのか、どのような原因で生じるのか、発症した際にはどのような診断が行われ、どのような治療が施されるのかに関してご説明してきましたが、ご理解いただけたでしょうか?

多嚢胞性卵巣症候群を放置していると、不妊症だけでなく、子宮内膜増殖症や子宮体がんの発生リスクを高めることにもなるため、多嚢胞性卵巣症候群を疑うような心当たりがある方は、ぜひ一度、医療機関にご相談に行かれて下さい。

この記事が多嚢胞性卵巣症候群に関する知識を深めるきっかけとなれば幸いです。

東京の「ミネルバクリニック」は臨床遺伝専門医が在籍するNIPT実施施設であり、たくさんの妊婦さんの悩みや不安と真摯に向き合い、笑顔になれる出産に導いてきました。ミネルバクリニックでは、妊娠9週から受けられる赤ちゃんの健康診断である「NIPT」を業界最新の技術と業界随一の対象疾患の広さで行っております。遺伝のエキスパートである臨床遺伝専門医が出生前診断を提供しておりますので、是非、お気軽にご相談ください。妊娠初期からの出生前診断を受ける医療機関にお悩みの方は、知識・経験・実績とも「第三者から認証されている」臨床遺伝専門医が診療している「ミネルバクリニック」まで是非、ご相談ください。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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