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卵巣が腫れるとどうなる?原因や治療法・妊娠への影響について

卵巣は、子宮の両サイドにあるうずらの卵くらいの大きさの器官です。月経のリズムを作ったり女性ホルモンを分泌したりと、女性の体にとって重要な役割を担っています。

排卵するための卵子を育てるため、日常的に膨らんだりしぼんだりすることから、臓器の中でも腫れやすい臓器だといえます。

検診などで卵巣が腫れてると指摘されて病院を受診する方も多いようですが、卵巣に問題のない方でも腫れることがあるので、すべての方が病気であるとは限りません。

とはいえ、卵巣は自覚症状が現れにくい臓器であるため、気づいたときにはすでに病状が進行していることもあるので注意が必要です。

そこでこの記事では、卵巣が腫れる原因と放置するリスク、卵巣が腫れる疾患の治療法と妊娠への影響についてご紹介します。卵巣が腫れていると指摘された方や卵巣付近に痛みを感じるなど、なんらかの症状がある方は、ぜひ最後まで読んでみてください。

卵巣が腫れる原因と放置するリスク

卵巣の辺りが痛くてお腹を押さえている女性

卵巣は骨盤の奥に位置しており、病気になってもなかなか表に症状が現れないことから、「沈黙の臓器」といわれています。近年では、多くの医療機関で超音波検査、いわゆるエコー検査が行われるようになったこともあり、比較的軽度の卵巣の腫れも発見されやすくなりました。

冒頭でもご紹介したように、卵巣は日常的に膨張と収縮を繰り返しているため、たまたま大きくなっている時期に検診を受けると、正常であっても「腫れている」と診断されることもあります。その場合は、日をあらためて再度検査をすると、正常な状態に戻っていることがほとんどです。

では、それ以外で卵巣が腫れる原因には一体どのようなものがあるのでしょうか。ここでは、卵巣が腫れる原因と放置するリスクについてご紹介します。

卵巣が腫れたときの症状

卵巣が腫れると、以下のような症状が現れます。

  • 腹痛
  • 膨満感
  • 腰痛
  • 頻尿
  • 便秘
  • 外側から触れる

卵巣は、なんらかの疾患にかかっていたとしても、初期の段階ではほとんど症状がありません。外側から卵巣が触れるようになる頃には、すでにこぶし大にまで腫れていることも多く、手術が必要になることもあります。

多くの場合、腹痛や膨満感(お腹の張り)などの症状が現れますが、痛みが激しくなったり嘔吐を伴ったりする場合、高熱が出るなどの場合には一刻も早く受診しましょう。

卵巣が腫れる原因

卵巣が腫れる原因は、大まかに以下のように分類されます。

卵巣腫瘍

卵巣の腫れの原因としてもっとも多いのは、「卵巣腫瘍」です。卵巣腫瘍は、ほとんどが良性の「卵巣嚢腫」と良性、境界悪性、悪性の3つの種類がある「充実性腫瘍」に分類され、その多くが卵巣嚢腫だといわれています。

良性の卵巣嚢腫でも、肥大するとこぶし大やそれ以上に腫れることもありますが、その原因はいまだ解明されていません。ただし、激しい腹痛を引き起こす可能性もあるため、早めに医療機関を受診し適切な治療を受けることが大切です。

一方の充実性腫瘍は、良性の可能性もありますが、多くの場合悪性、つまりがんということになります。進行して卵巣が肥大すると、下腹部の違和感だけでなく腹水がたまって膨満感を覚えるようになるでしょう。

女性ホルモンの分泌

卵巣は女性ホルモンを分泌する器官であるため、その影響で腫れることもあります。

多くの場合、生理周期に伴う女性ホルモンの分泌によるものなので、卵巣が腫れていても生理前には自然としぼみます。

正常な場合の卵巣は、大きくても2〜3cm程度です。排卵期になると卵子が放出されてしぼみますが、卵巣の腫れが4cmを超える状態が生理前になっても続く場合は、なんらかの疾患が隠れている可能性もあります。

また、妊娠初期ではhCGヒト絨毛性ゴナドトロピン)というホルモンに刺激されてルテイン嚢胞が発生し、卵巣が腫れることもあります。

ルテイン嚢胞は、通常片側の卵巣に発生する嚢胞で、妊娠16週までに消失することがほとんどです。しかし、それ以降も嚢胞が存在している場合は、良性腫瘍として適切な治療を行います。

ちなみに、更年期以降の卵巣の腫れは、卵巣がんなどの影響による可能性もあるため、注意しなければいけません。

通常、更年期に入ると女性ホルモンが減少します。そのため、良性の卵巣腫瘍の場合はそれに伴って腫瘍も小さくなっていきますが、卵巣の腫れが更年期以降に大きくなっている場合、悪性の可能性もあるのできちんと検査を受けるようにしましょう。

卵巣炎

卵巣炎は、大腸菌やブドウ球菌、クラミジア、淋病などの感染症が原因で卵巣が炎症を起こす疾患です。近年、若年層の間で非常に多くなっています。

炎症が進むと、卵巣や卵管内に水がたまったり臓器が癒着したりするため、下腹部の痛みや発熱、性交痛などがある場合は早めに受診しましょう。

ストレス

卵巣は、視床下部と下垂体による指令によって機能しています。

現在のところ卵巣の腫れとストレスの因果関係を示す確かな根拠はありませんが、ストレスによって体に負担がかかると自律神経の乱れや免疫の低下、血流停滞などを引き起こします。そのせいで卵巣がホルモンを分泌する指令にまで影響すると考えられています。

卵巣の腫れを放置するリスク

上述の通り、卵巣が腫れても初期の段階では症状がありません。腫れが進行し、卵巣が大きくなってくると卵巣を支えている靭帯が捻れて「卵巣茎捻転」という状態になってしまうこともあります。

卵巣茎捻転になると、猛烈な痛みを感じて動けなくなり、救急車で運ばれることもあるので早めの治療が大切です。

また、卵巣の腫れが悪性の場合、卵巣がんの可能性もあります。卵巣がんも初期の段階では自覚症状がないため、発見された頃には他の臓器にまで転移しているケースも少なくありません。

早期に発見するためにも、定期的に婦人科検診を受けるようにしましょう。

卵巣が腫れる疾患の治療法と妊娠への影響

卵巣と聴診器

上記でご紹介した通り、卵巣の腫れ自体は日常的に起こっていますが、原因によっては治療が必要です。

良性腫瘍の場合は、定期的に通院してそのまま経過をみるケースも多いですが、腫瘍の大きさによっては手術で切除することも。さらに詳しく調べる必要があると判断された場合は、MRI検査や腫瘍マーカーの測定などの精密検査を行い、その結果によって適切な治療が行われるでしょう。

卵巣の疾患は、女性の人生に多大な影響を与えます。とくに、妊娠を希望される方は、卵巣の腫れが妊娠にどう影響するのか気になるのではないでしょうか。

ここでは、卵巣が腫れる疾患の治療法と妊娠への影響についてご紹介します。

薬物療法

薬物療法が行われるのは、卵巣炎と卵巣がん、卵巣嚢腫の中では「チョコレート嚢胞」のみです。卵巣炎では抗生物質の投与や消炎剤での治療、卵巣がんでは抗がん剤による治療が行われるのが一般的です。

チョコレート嚢胞とは、子宮内膜症の一種で、本来子宮の内側にある子宮内膜が卵巣に発生することで起こります。通常、子宮内膜は月経時に経血として排出されますが、卵巣にできた内膜は排出されないため、古い血液が卵巣内でチョコレートのようにたまってしまうのです。

これをチョコレート嚢胞と呼び、嚢胞のサイズや患者さんの年齢によっては、がん化するリスクも高まるので、早めの対処が必要です。

チョコレート嚢胞の薬物療法には、「低容量エストロゲン・プロゲスチン配合薬」や「黄体ホルモン経口薬」、「GnRHアゴニスト療法」などがあります。

ただし、薬物療法と手術のどちらが適応になるかは、患者さんそれぞれの状況によって異なります。担当の医師の話をよく聞き、気になることがあれば質問して納得したうえで治療を受けるようにしましょう。

手術

卵巣の腫れが5〜6cmを超えている場合は、良性の腫瘍であっても手術で切除もしくは摘出する可能性が高くなります。なぜなら、チョコレート嚢胞以外の卵巣嚢腫は薬物療法では治らないうえに、大きくなると捻転や破裂が起こる可能性もあるからです。

チョコレート嚢胞でも、腫れが大きくなると排卵しにくかったり破裂したりする恐れもあるので手術で摘出することもあります。

手術は基本的に腹腔鏡で行われ、腹部に2〜3ヶ所小さな穴を開けて内視鏡で卵巣を摘出、嚢腫部分のみをくり抜いたり、周囲の臓器との癒着を剥がしたりします。ただし、手術前の検査で悪性が疑われる場合は、最初から開腹手術になることも知っておきましょう。

また、卵巣炎でも慢性化して周囲の臓器との癒着がひどい場合や、薬物療法では症状が改善しなかった場合などは、手術をして病巣を取り除くこともあるので早めに受診するようにしましょう。

妊娠への影響

妊娠を希望する方は、卵巣の腫れを放置すると妊娠に影響を与えることもあるため放置は禁物です。初期のうちに治療を受けておけば、一部を切除するだけで済む場合もあり、妊娠が望めます。

しかし腫瘍が大きくなって卵巣茎捻転が起きてしまうと、卵巣への血流が滞って細胞が壊死してしまう可能性もあるため、早期発見早期治療が重要なのです。

ただし、卵巣は腎臓と同じように左右にひとつずつあります。万が一片方の卵巣を摘出したとしても、もう片方の卵巣が正常であれば妊娠は可能です。

「妊娠する確率が下がるのでは?」と思われる方もいるかもしれませんが、片方を失ったとしても残った方の卵巣がしっかりと働いてくれるので、妊娠の可能性は2つあったときと変わりません。

また、手術で病巣部分のみを取り除いた場合も、卵巣の一部が残っていれば妊娠する可能性があるでしょう。

まとめ

卵巣が腫れる原因と放置するリスク、卵巣が腫れる疾患の治療法と妊娠への影響についてご紹介しました。

卵巣は、多少の腫れでは症状が出ないことも多いのが特徴です。しかも、片方の卵巣に異常があってももう片方が働きを補ってくれるため見つかりにくく、他の検診がきっかけで発見されるケースも少なくありません。

卵巣の腫れの原因は人それぞれですが、早期に発見し適切な治療を受けるためにも、普段から定期的に婦人科検診を受けることをおすすめします。そして、なんらかの疾患が見つかった際には、きちんと説明を聞いたうえで医師の指示に従い、適切な治療を受けるようにしましょう。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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