NIPT(新型出生診断)とは?検査内容をわかりやすく解説
妊娠中には、胎児に先天的な異常が起きていないかを調べる検査を受けられます。近年では医学研究が飛躍的に進んでおり、複雑な検査にも対応できるようになりつつあります。
中でも注目を集めているのは、母体の血液検査によって胎児の染色体異常の有無を判定できるNIPTと呼ばれる検査です。
本記事では、新型出生診断NIPTの検査方法について詳しく解説します。また、NIPT検査に適した時期や検査によって分かること、検査の精度などについても紹介します。
NIPTとは妊娠中に行える無侵襲的出生前遺伝学的検査のこと
NIPTは、Non-Invasive Prenatal genetic Testingの頭文字を取ったもので、日本語では無侵襲的出生前遺伝学的検査と呼ばれています。非侵襲的出生前スクリーニング(NIPS)、非侵襲的出生前検査(NIPT)、無細胞DNA検査(cfDNA)と呼ばれることもあります。
出生前診断には形態異常を調べる検査と染色体異常を調べる検査があります。染色体異常を調べる出生前診断は、診断内容を確定できない非確定検査と、胎児の異常を確定できる確定検査の2種類です。NIPTは出生前診断のうち、非確定検査に該当します。
NIPTは医学的には、診断ではなくあくまでスクリーニング検査と捉えられています。妊娠中に行える検査にはほかに羊水検査や絨毛検査などがありますが、NIPTはこれらの確定検査に取って代わるものではありません。
NIPTの特徴は、検査対象が胎児ではなく母体であるという点です。妊娠中の母体の血液検査によって、胎児の染色体異常が起きていないかを判断します。
母体の血液を採取して胎児の異常を判定できれば、検査のためにお腹に針を刺す必要がありません。検査を原因とした流産などのリスクを避けられるのがNIPTの良さです。
非確定検査でありながら精度が高めなのもNIPTを受けるメリットです。低リスクかつ精度の高い検査であれば、妊娠中にも安心して受けられます。
NIPTで判定できる染色体異常の種類は3つ
ヒトの染色体は46本あり、それぞれの染色体には番号が付けられています。1番からナンバリングされている常染色体は計44本あり、さらに性染色体と呼ばれるXとYが存在しているのです。
この染色体に何らかの異常が起きていることを染色体異常といいます。染色体異常の中でも最も多いのは、染色体の数が通常よりも多いトリソミーと呼ばれる数的異常です。
トリソミーがあるときには初期に流産が起きてしまうのが一般的です。ただし、以下の3つのトリソミーは流産が起きずにそのまま産まれてくることも少なくありません。
- ・21トリソミー(ダウン症候群)
- ・18トリソミー(エドワーズ症候群)
- ・13トリソミー(パトゥ症候群)
トリソミーが起きる頻度は母体の年齢に比例するといわれます。つまり、高齢出産になるほどトリソミーのリスクも高まりやすくなると考えられます。
ダウン症候群と呼ばれる21トリソミーは、母体の年齢が20歳のときにはおよそ2,000分の1の確率で起こるといわれます。しかし、母体の年齢が40歳になると、その発症率は100分の1になります。
ダウン症候群は21番染色体が通常より1本多い3本の状態です。21番染色体のDNA量が1.5倍となってしまうことによって、胎児にはさまざまな症状が現れます。
具体的には頭が大きく手足が短い低身長や特徴的な顔貌、発達遅延が見られます。また、心臓異常や合併症が現れることもあります。
18トリソミーは約3,500~8,500分の1の割合で発症するといわれます。その6割は子宮内で亡くなり、産まれた場合でも男児は1.6ヶ月前後、女児は9.6ヶ月前後で亡くなってしまいます。
出産ができた場合でも成長障害や運動障害が起きやすく、心臓病が起きる可能性も高いのが特徴です。
13トリソミーは13番染色体が多く複製されることで起こります。発症率は約5,000~12,000人に1人といわれます。妊娠初期から中期までに子宮内で亡くなってしまうケースも少なくありません。産まれた場合でも、脳や顔面の病気、心臓病などの致命的な症状が起きやすいです。
13トリソミーの場合、染色体の変異部位が同じであっても、胎児に現れる異常の症状や重症度、出産後の経過はそれぞれ異なります。
NIPTの検査対象となる妊婦さんの条件とは
NIPTの検査では、21トリソミーや18トリソミー、13トリソミーといった染色体異常の有無を判断できます。検査は現状、希望する妊婦さんのうち条件に該当した方のみに行われています。
NIPTの検査を受けられる妊婦さんの条件は以下の通りです。
- ・妊婦さんの年齢が高いとき
- ・妊婦さんが染色体数的異常のある胎児を妊娠したことがあるとき
- ・母体血清マーカー検査の結果、胎児の染色体数的異常の可能性が考えられるとき
- ・胎児超音波検査の結果、胎児の染色体数的異常の可能性が考えられるとき
- ・妊婦さんかパートナーのいずれかが均衡型ロバートソン転座を有していて、胎児に13トリソミーか21トリソミーの可能性が考えられるとき
- ・妊婦さんが胎児の染色体数的異常に対して強い不安を抱いており、カウンセリングなどでも解消されないとき
ただし、状況によっては羊水穿刺などの検査が向いていることもあります。NIPTを受けるべきか否か、あるいはほかの検査を選ぶべきかは、医師が診察した上でさまざまな観点から判断します。
NIPTの検査費用は医療機関によって異なります。検査項目が多い場合、費用は20万円ほどになることもあります。
欧米の一部の国ではNIPTが保険でカバーされるため多くの妊婦さんが検査を受けているのが現状です。しかし日本国内では現在のところ、NIPTは保険適用外となっています。
NIPTは妊娠初期の早い時期に受けておくことが大切
NIPTには、妊娠初期ほどより検出率が高いという特徴があります。
NIPTの検査の対象は、原則として、妊娠10週から15週くらいまでの妊婦さんです。多くの妊婦さんは、妊娠10週を過ぎてすぐの時期に検査を行っています。
早い段階で検査を受けられるNIPTは、まだ妊娠週数が少ないうちから胎児の状態を確認できるというメリットがあります。胎児の状態を早くわかれば、その後の選択肢も増えやすいといえるでしょう。
NIPTにおける異常の検出率は早い時期ほど高めとされているため、検査を行うのであれば妊娠10週を過ぎてすぐの時期を選びたいものです。検査を受けようと決めている方は、妊娠初期の段階で検査に対応している医療機関を探しておくことが大切です。検査前には予約を求められることが多く、紹介状が必要となることもあるため、早めに計画を立てておきましょう。
NIPTの具体的な検査方法や気をつけたいポイントは?
NIPTは、妊婦さんの血液を採取し、その血液を仔細に検査して胎児に染色体異常が起きていないかを調べる検査方法です。
NIPTではまず、対象者の血液を採取し、血漿よりcfDNAを単離します。続いてcfDNAの全塩基配列をシーケンサーで解読し、リードデータを取得。この方法で得たcfDNAのリードをリファレンスゲノム配列に貼り付けるという方法で、染色体の数を数えます。
正常な胎児の染色体数と比較する解析方法によって、染色体に異数性があるかどうかを検出することが可能となるのです。
確定検査として知られる羊水検査は、母体に細い針を刺すという方法で行われます。この検査方法には流産や早産、死産などのリスクがあります。
NIPTの検査は羊水検査とは異なり、母体から血液を採血するのみで検査を行うことが可能です。胎児に影響を与えない検査なので、流産や死産のリスクが高まるおそれはありません。
胎児の染色体異常を見つけるスクリーニング検査にはほかに、超音波検査(遺伝学的超音波スクリーニング検査)や初期母体血清マーカー組み合わせ検査があります。スクリーニング検査はあくまで染色体異常のうち特定の染色体以上について調べるものです。
染色体異常の有無を確定させるためには、絨毛検査や羊水検査といった確定検査が必要となります。
NIPT検査で判定できる染色体異常とは
新生児期の先天的形態異常には染色体不均衡や単一遺伝子異常、複合奇形などがあります。ダウン症の原因となる染色体不均衡は先天的形態異常の約4分の1を占めています。
ダウン症は染色体異常の中でも18トリソミーと13トリソミーの異常によって起こるものです。NIPTの血液検査で分かるのは、21トリソミーと18トリソミー、13トリソミーの染色体異常の有無に限られます。
妊娠中の染色体トリソミーにはほかにも多くの種類があります。しかし、21トリソミーと18トリソミー、13トリソミー以外の染色体トリソミーがある場合、ほとんどが初期の流産につながってしまうのです。
NIPTでは主に判定すべき21トリソミーと18トリソミー、13トリソミー以外の常染色体の異数性も判断できます。さらに、モノソミーなどほかの染色体の異数性についても把握することが可能です。
NIPTでは、ダウン症候群である21トリソミーのみを検査するなどの方法も選べます。単体プランを選んだ場合、費用を多少抑えられます。
NIPTで胎児の形態異常をすべて把握することはできません。胎児には染色体異常以外の異変による顔面や手足の指の形態異常、脳の異常などが起こることもあります。これらの問題は、超音波検査などでしか判定ができないからです。
なお、NIPTでは染色体の状態を確認するため、胎児の性別を判定することも可能です。X染色体やY染色体を調べられる検査なので、性別の判定を誤る可能性はほぼありません。
ただし、NIPT検査で判定するのはY染色体があるかどうかです。双子の妊娠のときには、胎内に男児がいるかどうかを判定するのみに留まることがあります。
NIPTの精度や検査を受けるにあたって知っておきたいポイント
母体血清マーカー検査やコンバインド検査は非確定的な検査です。NIPTはこれらの検査に比べて制度が高いとされています。
NIPTの検査において、21トリソミーの感度は99.9%です。また、18トリソミーの感度は97.4%、13トリソミーの感度は87.5%となっています。
21トリソミーでは陽性的中率が高めといわれていますが、18トリソミーや13トリソミーでは偽陽性が出ることもあります。偽陽性となった場合、染色体異常があるとされるものの、実際には胎児に異常が起きておらず元気という珍しくありません。逆に、NIPTで陰性とされたものの実際には染色体異常が起きている偽陰性もまれに起こります。
NIPTの検査は、疾患リスクが高いか低いかを判定するためのスクリーニング検査に過ぎません。胎児に疾患があるかないかを確定的に検査したいときには、出生前診断検査を行う必要があります。
NIPTは染色体異常を調べるための検査です。NIPTで判定すべきなのは21トリソミーと18トリソミー、13トリソミーですが、それ以外の染色体トリソミーの結果が出るケースもあるものです。
とはいえ、NIPTはすべての染色体疾患や先天性欠損を検査できるものではありません。また、21トリソミーと18トリソミー、13トリソミー以外のトリソミーはNIPT検査をする頃までに流産してしまうため、結果に出てもほとんど意味はありません。
NIPTは採血のみで検査できるというメリットがあります。一方、NIPTでは赤ちゃんの姿を見ることなく行われることから、妊婦さんや家族の不安や混乱を煽ってしまうというリスクも考えられます。
NIPTで陽性が出た場合でも、偽陽性の疑いがあるため必ずその後確定検査を受けなければなりません。まずは、胎児ドックを受け、そののち確定検査である絨毛検査を行うとよいでしょう。NIPTで陽性、胎児ドックで陰性が出たときには、16週を待って羊水検査を受けるという方法もあります。
いずれの場合でも、検査の方法や内容は医師と細かく話し合った上で決めていくことが大切です。
NIPTはあくまでもスクリーニング検査なので、確定検査は別途必要
NIPTとは胎児の染色体異常について調べるスクリーニング検査です。胎児に直接アプローチするのではなく、母体の血液を採取し専門の検査を行うことで胎児の異常を判断できます。
胎児に悪影響を与えることなく検査できる安全性や、特定のトリソミーの高い検出率がNIPTの大きな特徴です。ただしNIPTはあくまで非確定検査であるため、陽性が出た際には羊水検査や絨毛検査などの確定検査を行う必要があります。
胎児に染色体異常が起きていないかを妊娠中に調べておくことは、妊婦さんや家族にとって大きな安心材料となります。妊娠中にどのような検査を受けるか悩んでいる方は、NIPTについて詳しく医師に相談してみてはいかがでしょう。
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