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【医師執筆】化学的流産とその後の妊娠について

化学的流産(Chemical abortion)とは、受精卵が着床した頃の早い段階で起こる流産のことです。妊娠検査薬では反応が出ても、超音波検査で妊娠が確認できる前に流産してしまっているため、妊娠検査を行っていない方は妊娠していたことに気がつかず、少し遅れて生理が来たと思って過ごしてしまいます。

化学的流産は、不妊治療などを受けている女性の方がよく気づくという特徴があります。

その理由は、不妊治療を行っている女性は赤ちゃんができるのを心待ちにしているため、妊娠検査薬で早めに妊娠しているかをチェックするからです。

妊娠検査薬で陽性が出て病院を受診したにもかかわらず、超音波検査で妊娠していないとわかり大きなショックを受けるかもしれませんが、化学的流産が起こったということは妊娠が可能であることの裏付けにもなりますので、自信を持って妊活を続けましょう。

この記事では、化学的流産と化学的流産後の妊娠についてご紹介します。

化学的流産とは

流産

化学的流産という言葉もあまり一般的ではないため、いざ自分がそうなってからはじめて聞いたという方も多いのではないでしょうか。

ここでは、化学的流産とはどのような状態なのか詳しくご紹介します。

妊娠の超初期に起こる流産のこと

そもそも妊娠は、受精卵が子宮内膜に着床しなければ成立しません。化学的流産は、受精した後の着床が継続せず通常の妊娠に移行しなかった状態のことです。

通常、子宮内に到着して7日目くらいに子宮内膜に受精卵が潜り込み、数日たたなければ着床は完了しません。

着床というと、受精卵が子宮内膜に張り付いているイメージをされる方もいるかと思いますが、子宮内膜に触れた程度でもhGC(妊娠を維持するためのホルモンで尿に含まれる)が産生されてしまうため、しっかり着床する前の段階で妊娠検査薬が陽性と判定してしまうのです。

着床が継続しなかった受精卵は、通常の生理と同じように自然と体外に排出されていきます。

化学的流産が起こるのは、赤ちゃんを包む胎嚢という袋が確認できないような妊娠の超初期だからです。妊娠のきわめて初期に起こる流産であるため妊娠確定対象にはならず、医学的には流産として数えられません。

以下は、化学的流産の特徴です。

  • ・早期妊娠検査薬で陽性反応が出る
  • ・生理のような出血がある
  • ・普段の生理より少し遅れて出血する
  • ・普段の生理より症状が重い
  • ・自覚症状がほとんどない
  • ・稀に下腹部の痛みや張りなどがみられる

最近では受精して1週間後から妊娠がわかる早期妊娠検査薬も販売されており、赤ちゃんを待ち望んでいる方が早い段階で妊娠に気づき産婦人科を受診したものの、胎嚢を確認できないことから化学的流産とわかるケースも多くあります。

化学的流産は誰にでも起こる可能性がある

化学的流産は、年齢が若く健康なカップルでも3割〜4割の確率で起こっていることがわかっており、経験した女性の多くは、自分の体で流産が起こっていることに気がついていません。そのため、病院で化学的流産と診断された方は全体の中でほんの一部だといわれています。

上記でもご紹介したように早期妊娠検査薬などの登場により、自分が化学的流産したとわかってしまうケースも増えています。

化学的流産は昔からよくある自然現象であり誰にでも起こる可能性がありますので、誰のせいでもありません。

不妊治療を行っている方の中には、化学的流産を何度か繰り返したのちに順調な妊娠が叶った方も多くいます。

落胆も大きいですが、妊娠に一歩近づいたと思ってゆったりとした気持ちでパートナーと過ごすようにしましょう。

ただし、稀に不育症などが原因で化学的流産を何度も繰り返すケースもありますので、気になる方は一度不妊治療を受けている病院で相談してみてください。

化学的流産後の妊活について

流産

化学的流産は医学的には流産とはみなされないので、生理が一度きて排卵が起これば妊活を再開してもよいでしょう。

排卵が起こっているかを知るためには、基礎体温を毎日きちんと測ったり、病院で排卵日の予測をしてもらったりするなどの方法があります。

基礎体温は不妊治療を行う際にも重要になってくるので、妊娠を望んでいる方はつけておく必要があります。

以下は、基礎体温の正しい測り方です。

  • 目が覚めてすぐ体を動かさずに基礎体温計を取る
  • 基礎体温計を舌の下にある中央筋の根本部分に当てて体温を測定する
  • 基礎体温計を口の中で固定し口を閉じる
  • 基礎体温表に書き込む

一般的に体温を測るときは脇の下で測定しますが、基礎体温は体温が安定している口の中で測定します。

生理が始まってから次の生理が来るまでを1周期として、毎日基礎体温を測りましょう。

基礎体温表が低温期と高温期の二相性を描いていれば、基礎体温は正常です。

基礎体温が上昇しはじめる3日間くらいの間に排卵されるケースが多いので、高温期に入る前の体温が一度ガクンと下がる前日あたりに性行為をするとよいでしょう。

ここでは、化学的流産後の妊娠についてご紹介します。

化学的流産後は妊娠しやすいという噂について

化学的流産の後は妊娠しやすいという噂を聞いたことのある方もいるかもしれませんが、この噂には科学的な根拠がありません。

化学的流産に限らず通常の流産では、卵管の癒着や子宮内膜ポリープなどの治療後は妊娠しやすくなる可能性があります。

しかし、化学的流産後に妊娠しやすい体質に変わるといったことはありません。

化学的流産は予防できる?

化学的流産の主な原因は染色体異常によるものですが、解明されていないことも多いため、残念ながら今のところ化学的流産を予防する方法はありません。

人間はすべての受精卵のうち約3割が染色体異常を持っていると推測されており、かなりの高確率であることがわかっています。

染色体異常をもつ受精卵のほとんどは、受精後から着床してすぐの段階で成長をストップさせるため、化学的流産が起こってしまうのです。

以下は、流産する確率が高い染色体異常の例です。

  • ・16トリソミー
  • 18トリソミー
  • 21トリソミー
  • ・22トリソミー
  • ・他の染色体のトリソミー
  • ・Xモノソミー
  • ・三倍体
  • ・四倍体
  • ・不均衡転座

染色体異常をもっている受精卵のうちごく一部がその後も発育し出生にいたります。ただし、わずかな異常でも重大な障害を伴って生まれてくることがわかっています。

また、若いカップルでも化学的流産の可能性はありますが、女性の年齢が高くなればなるほど染色体異常の確率が高くなるため、それに伴って流産する確率も高くなってしまうことに注意が必要です。

化学的流産は予防できませんし、どんな方でも起こる可能性があるので、気にしすぎず妊娠しやすい体づくりをするように心がけましょう。

フライング検査とは

妊娠検査薬陽性反応

現在薬局では生理予定日よりも前に妊娠がわかる早期妊娠検査薬もたしかに販売されていますが、ほとんどの妊娠検査薬は生理予定日の7日後以降の検査を推奨しています。

一般的に、生理予定日の7日後よりも前の妊娠検査は「フライング検査」と呼ばれていて、結果が正しく表示されないケースや化学的流産とわかってしまう可能性があるためあまりおすすめできません。

以下は、フライング検査をおすすめできない理由です。

  • 早い段階で妊娠検査をしても正確な判断が困難
  • 検査の結果によってはストレスになる
  • 知らなくてもよい化学的流産を知ることになる

自分で妊娠検査薬を使って判定しても、病院で妊娠かどうか確定できるのは妊娠5〜6週以降です。

化学流産を知ることで、必要のない喪失感をおぼえる可能性もありますので、フライング検査はなるべくしないようにしましょう。

まとめ

化学的流産と化学的流産後の妊娠についてご紹介しました。

近年、分娩できる病院が少なくなっていることもあり、妊活を行っている方は生理が予定より1日でも遅れるとすぐに妊娠検査薬で調べる傾向にあります。

そのため、昔は気がつかなかった化学的流産と診断されることが増えてきています。

化学的流産は、流産という言葉の響きからがっかりしてしまう方も多くいますが、医学的には流産に含まれないため気にしすぎないことが大切です。

化学的流産後は一時的にホルモンバランスが変化していることもあるため、基礎体温が乱れるケースもありますが、また次の生理が通常通り来ますし、基礎体温を測って排卵されているようでしたら妊娠も可能です。

むしろ化学的流産したということは、排卵や受精には問題がないという証拠でもあります。

不安になってしまうかもしれませんが、焦らず妊娠しやすい体づくりを心がけましょう。

化学的流産が気になる方は、ぜひ本記事を参考にしてみてくださいね。

東京の「ミネルバクリニック」は臨床遺伝専門医が在籍するNIPT実施施設であり、たくさんの妊婦さんの悩みや不安と真摯に向き合い、笑顔になれる出産に導いてきました。妊娠初期からの出生前診断を受ける医療機関にお悩みの方は、知識・経験・実績とも「第三者から認証されている」臨床遺伝専門医が診療している「ミネルバクリニック」まで是非、ご相談ください。

 

 

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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