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胚盤胞のグレードと染色体異常の関係性|出生前診断についてもご紹介

近年、男女の社会進出の平等などが実現しつつある一方で、将来の子育て等の資金に対する不安、女性の出産後の社会復帰の機会の不十分な整備なども相まって、晩婚化が進展しつつあります。

晩婚化に伴って生じているのが「不妊症」に悩むカップル・夫婦の増加。「不妊症」とは、健康な男女が妊娠を望んで避妊を行わずに性行為を重ねるものの、1年以上に亘って妊娠に至らない状態を指します。2015年前までは2年以上という期間でしたが、社会情勢に合わせて1年以上という形に修正されました。

不妊症に対する治療方法は患者さんの様態に応じてタイミング法から始まり、人工授精体外受精・顕微授精などが用意されています。このように、さまざまな治療法が確立される一方で、老化を原因とする受精卵の染色体異常などを調べる方法も整備が進められてきています。

この記事では、不妊症治療の中でも体外受精、特に胚盤胞移植を検討されている方に向けて、胚盤胞の概要に関して、受精卵のグレードと染色体異常の関係性に関してご説明していきます。ぜひ最後までご覧ください。

胚盤胞とは

疑問点
まず初めに確認するのは、胚盤胞(はいばんほう)についてです。「胚盤胞」とは、精子卵子の受精によって誕生した受精卵が細胞分裂を繰り返していき、子宮内膜への着床の準備ができた状態にまで成長した受精卵のことを指しています。

受精卵は受精した直後、精子と卵子がひとつになっただけの丸々とした状態ですが、受精から1日が経ったくらいのタイミングで細胞分裂が生じ2つに分割されます。細胞分裂によって分割された細胞数が8つ未満の受精卵を初期胚(しょきはい)、8~16のものを桑実胚(そうじつはい)、16以上のものが胚盤胞というように成長していきます。

受精卵のグレード

優良可のイメージ画像
体外受精では前述した受精卵の成長具合と、その時期に合わせた子宮への移植によって「初期胚移植」「胚盤胞移植」があります。

このような移植治療がありますが、それぞれの移植ではどのような受精卵を優先的に子宮へと戻す(移植する)のかを判断するための「グレード」という指標があります。

グレードは初期胚と胚盤胞のそれぞれに設けられているため、それぞれに関して見ていきましょう。

初期胚のグレード

初期胚のグレードは細胞分裂の状態に基づいたものとなっており、「フラグメント」と呼ばれる細胞分裂を繰り返す中で生じる細胞のかけらの有無と、「割球(かっきゅう)」と呼ばれる細胞分裂によって分割された細胞それぞれの大きさのバランスが指標となって、グレード1~6まで存在しています。

それぞれのグレードと初期胚の状態をまとめたものが以下のグラフです。

初期胚のグレード フラグメントの有無 割球の大きさのバランス
グレード1 なし 均等
グレード2 少し 均等
グレード3 なしまたは少し 不均等
グレード4 半分程度 均等または不均等
グレード5 大部分に存在 不均等

グレードの数字が小さいほど細胞分裂が良好に行われている受精卵ということになっています。

初期胚移植の際に、複数の受精卵が用意できている場合にはグレード1に近い受精卵が優先的に移植されていきます。加えて、多くの病院がグレード3までを移植に用いており、グレード4・グレード5の受精卵は胚盤胞まで成長する見込みが小さいため移植に用いないことが一般的です。

胚盤胞のグレード

初期胚のグレードは細胞分裂の状態を基準としていましたが、胚盤胞の場合には成長具合と細胞分裂後に分化した細胞群の量が基準となった指標(グレード)が設定されています。

発育状態(成長速度)に照らし合わせたグレードはBL1~BL6までが設定されており、数字が大きいほど成長が進んでいる胚盤胞であるということになります。

発育状態のグレードと実際の胚盤胞の状態を照らし合わせたものが以下の表になります。

発育状態のグレード 胚盤胞の状態
成長速度が遅い BL1 胚盤胞の内部に「胞胚腔(ほうはいくう)」という空間ができている
BL2 胚盤胞内の胞胚腔が半分ほどの空間を占めている
BL3 胚盤胞内の胞胚腔がより大きくなり全体にいきわたる
成長速度が速い BL4 胞胚腔が大きくなるとともに、透明帯が薄くなる
BL5 孵化がはじまり、胚盤胞が透明帯の外へ飛び出し始める
BL6 孵化がおわり、透明帯から完全に脱出

グレードの数字が小さい胚盤胞は限りなく桑実胚に近い状態にあるということであり、着床のための準備が十分にできているとは言えない状態です。BL6に近いほど成長具合としては着床のための準備が十分に済んでいるということになるのですが、受精後5日目の段階でBL6まで達している胚盤胞は稀なもので、BL4・BL5の胚盤胞が移植へと用いられることが多いです。

BL4まで成長している胚盤胞ですと、細胞分裂した細胞それぞれが塊となって、「外細胞塊(がいさいぼうかい)」という後の胎盤となる細胞、「内細胞塊(ないさいぼうかい)」という後の赤ちゃんとなる細胞群に分化していきます。

それぞれの細胞群の細胞数に応じたグレードも用意されており、その量に応じてA~Cのグレードが存在します。細胞数とグレードは以下のように対応しています。

細胞数のグレード 内細胞塊・外細胞塊の細胞数
A 十分に多い
B やや少ない
C 非常に少ない

上記で説明したグレードは「成長具合・内細胞塊の大きさ・外細胞塊の大きさ」という順番でまとめられて示されます。例えば、「BL5BA」であれば、「成長具合がBL5、内細胞塊の細胞数はやや少なめで、外細胞塊の細胞数は充分にある」胚盤胞であることを示しています。

胚盤胞の染色体異常

染色体のイメージ画像
ここでは胚盤胞の染色体異常に関してご説明していきます。グレードと染色体異常の関係性では、どのような関係性があるのかを具体的には知らないという方も多いことでしょう。

染色体異常全般の知識から、グレードとの関係性をしっかりと理解していきましょう。

正常な数の染色体を持つ胚盤胞の年齢別割合

まず初めに確認するのは、染色体数が正常な胚盤胞の年齢別割合に関してです。

2012年に刊行された科学雑誌RBMOnlineにて、アメリカの遺伝子情報診断センターが約1万症例、約6万個の胚盤胞の染色体異常に関する結果を報告しています。

その報告では、正常な染色体と胚盤胞の年齢別割合が以下のように示されています。

得られた胚盤胞数 正常な染色体である胚盤胞の年齢別割合
一般女性 35歳未満の不妊女性 35~37歳の不妊女性 38~40歳の不妊女性 41~42歳の不妊女性 43歳以上の不妊女性
1~3 60% 58% 47% 35% 21% 13%
4~6 64% 55% 47% 34% 29% 14%
7~10 65% 55% 47% 33% 18% 11%
10より多い 66% 56% 43% 33% 21% 11%
全体平均 65% 56% 46% 33% 19% 13%

表から分かるように、年齢の増加に伴って正常な染色体数である胚盤胞の割合は小さくなっていきます。

加齢と染色体異常のメカニズム

上記にて確認したように「加齢」は染色体異常の要因のひとつとして挙がってきます。ここでは加齢によって染色体異常が発生しやすくなるメカニズムに関してご説明していきます。

卵子が作られる仕組み

卵子は無尽蔵に作り出せるわけではありません。原子卵胞という細胞が卵子を作り出しており、この原子卵胞は女性が母親のお腹の中にいる時点でできあがり、生まれた後に新しく作り直されることがないためです。

そのような仕組みがあったうえで卵子は作り出されるため、原子卵胞、原子卵胞から生み出される卵子というのは女性自身の年齢と同じであるということになります。

加齢による染色体異常の増加

中学時代の保健授業などで、子どもはお父さんとお母さんの遺伝子を半分ずつもらっていると説明されたこともあるかと思いますが、これは、遺伝子を決定する染色体が2つで1対という構造になっており、1対になるためのそれぞれの染色体をお父さんとお母さんから受け継いでいる、ということを意味しています。

通常は2つで1対である染色体が、子孫を残す(有性生殖を行う)うえで必要となる精子と卵子を作るために1つになる細胞分裂を「減数分裂」と言います。

女性の体では減数分裂が卵子を産み出す過程で行われているのですが、前述したように、そのスタートとなる卵子を産み出す原子卵胞は女性が赤ちゃんであったときに既にできあがっています。

つまりは、赤ちゃんのときに原子卵胞はできあがるものの、成長して排卵をするタイミングまで減数分裂を中断させている状態にあるというわけです。

年齢を重ねるということは、卵子の減数分裂の中断期間を長くするということであり、40歳の際に作られた卵子は40年の中断期間を経て減数分裂を完了させたということになります。中断期間が長いゆえに分裂が上手くいかないというのは想像に難くありません。

このような理由によって、「加齢」が染色体異常の原因として挙がってくるのです。

グレードと染色体異常の関係性

胚盤胞のグレードと染色体異常の関係性では、「成長速度の速い胚盤胞と比べて成長の遅い胚盤胞は染色体異常率が高い傾向にある」ということが明らかにされています。

具体的な関係性を示した表が以下になります。

胚盤胞のグレード 胚盤胞に見られた染色体異常の割合
染色体異常なし モノソミー トリソミー 2本染色体異数性 3本以上の染色体異数性
BL5orBL6 50% 10% 30% 5% 5%
BL4 45% 15% 20% 15% 5%
BL3 40% 20% 15% 15% 10%
BL3未満 35% 15% 20% 15% 15%

このような医学的な結果が明らかにされている一方で注意しなければいけないのは、決して胚盤胞のグレードを図れば染色体異常か否かを確かめられるわけではないということです。グレードというのはあくまでも受精卵の外観に基づいて定められているため、受精卵の内部の情報である染色体異常は別の手法でなければ調べられません。

「グレードが不良であるから染色体異常が生じている」と決めつけてしまわないようにしましょう。

まとめ

喜ぶ夫婦と医師
ここまで、胚盤胞について、受精卵が胚盤胞へ成長する際に用いられるグレード、グレードと胚盤胞の染色体異常の関係性と染色体異常の要因、要因(加齢)がどのように影響しているのかをご説明してきましたが、ご理解いただけたでしょうか?

ミネルバクリニックでは最新型出生前診断であるNIPTを行うことも可能であり、体外受精によって無事に妊娠したものの授かった赤ちゃんが健康であるかを心配するお父さんお母さんへのサポートも充実しております。

この記事をきっかけにNIPTや出生前診断全般について知りたくなった方は以下に示すコラムもぜひご覧になられてください。
出生前診断の種類|検査内容や費用を解説 出生前診断の種類|検査内容や費用を解説

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プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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