ゲノムとエピゲノムの情報統合

 
一次転写産物RNAmRNAになっていく過程をプロセシングと言います。

RNAスプライシング

βグロビン遺伝子の一次転写産物RNAには、長さ約100塩基対(bp)と850bpの2つのイントロンが含まれ、成熟mRNAが形成される前にイントロンはとり除かれて、残り、すなわちエクソンに相当する部分のRNA断片同士が結合されます。

これをRNAスプライシング(RNA splicing)と呼び、正確かつ効率的にβグロビン転写産物の95%が除去されて、機能をもつグロビンmRNAになります。
スプライシング反応は、一次転写産物RNAのイントロンの5′末端と3′末端にある特異的配列をターゲットに起こされます。
5’末端の配列は9塩基からなりそのうちの2塩基はGT(RNA転写産物ではGU)で、スプライス部位に隣接するイントロンに位置するします。
3’末端の配列はおよそ12塩基からなり、こちらもそのうち2塩基がAGで、イントロンとエクソンの境界のすぐ5’側に存在します。
どちらも正常なスプライシングに不可欠です。
スプライス部位自体は個々のmRNAのコドンとは無関係に存在していて、例えばβグロビン遺伝子のイントロン1では、このイントロン自体でコドンが分断されています。
RNAスプライシングの医学的重要性は、イントロンとエクソンの境界にある保存された配列内にバリアントが生じると、RNAスプライシングが異常を来し、正常な成熟βグロビンmRNAの量が低下することとなります。
要するに、GTやAGの2塩基に変異が起こって書き換えられてしまう、その変異をもつイントロンでは正常なスプライシングが行われなくなり、βサラセミアの原因となります。

選択的スプライシング

一次転写産物RNAからRNAスプライシングによりイントロンが除去されて残ったエクソンが互いにつなぎ合わされ、成熟mRNAとなるのですが、ほとんどの遺伝子の一次転写産物には複数のスプライシング反応があり、このうちのどのスプライシングが選択されるかにより似てはいるが同一でない複数のmRNAが合成されます。
これらが翻訳されることで異なるタンパクが生じることになります。
組織特異性や細胞特異性が非常に高い選択的スプライシングもあり、また選択的スプライシングが一次配列により決定されるのであればアレルの個体差が選択的スプライシングに影響することになる。ほとんどのヒト遺伝子は多かれ少なかれ選択的スプライシングを受けるため、ヒトゲノムでは1遺伝子から平均2~3種類の転写産物が生じると椎定される。このため、ヒトゲノムの情報量は拡大し、椎定2万というタンパクコード遺伝子の数を大きく超える種類のタンパクが作られることになります。
選択的スプライシングによる調節は、ニューロンの発達の過程で特に重要な役割を果たしていて、神経系に必要な多様な椴能を付与しています。

ポリアデニル化

成熟βグロビンrnRNAには、終止コドンとポリAテールの間におよそ130塩基対の3’非翻訳領域(3’UTR)が存在します。
他の遺伝子の場合と同様、mRNAの3’末端の切断とポリAテールの付加は、ポリアデニル化部位のおよそ20塩基対前に存在するAAUAAA配列をシグナルとして行われます。
βサラセミア患者ではポリアデニル化シグナルの変異が認められ、3’側の適切な切断にポリアデニル化シグナルの重要性が明らかとなりました。
遺伝子によっては、3’UTRが数kbと長いものもあり、ポリアデニル化部位を多数もち選択できる遺伝子もあり、ポリアデニル化部位の選択によって、生じてくるmRNA
の安定性が変わるため、mRNAの定常状態の発現レベルが変化するものもあります。

RNA編集とRNA-DNA配列の相違

近年のこうした知見は、RNAやタンパクのアミノ酸配列がゲノム配列に由来するというセントラルドグマが必ずしも絶対ではないことを示しています。
ヒトを含む複数の種でmRNAの塩基配列が変化するRNA編集が発見されていて、RNA編集により特定部位のアデノシン(A)の脱アミノ化が起こってDNA配列中のAが、RNAでイノシンに変換され、これが翻訳するときにGと読まれ、特に神経系の遺伝子発現やタンパク機能を変化させてしまうのです。


他の塩基でもRNA-DNA配列の相逃(コードされるアミノ酸配列が変化する)がよくみられ、その頻度や場所に個人差があることがわかってきています。
このメカニズムや臨床との関連はまだ識論があるところですが、転写産物やプロテオームの多様性を増加させるさまざまな過程があることを示しています。

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この記事の筆者

1995年医師免許取得。血液・呼吸器・感染症内科を経て、臓器別・疾患別の縦割りの医療の在り方に疑問を感じ、人を人として”全人的”に診療したいという思いを強くし、臓器を網羅した横断的専門医となり、2010年にがん薬物療法専門医取得(2019年現在全国1200人程度)。臓器を網羅すると遺伝性がんへの対策が必要と気づき、2011年に臨床遺伝専門医取得(2019年現在全国1000人程度)。遺伝相談はセンシティブな分野にもかかわらず、昼間の短い時間しか対応できない大病院のありかたに疑問を感じて、もっと必要な人がハードルを感じずに診療を受けられるようにしたいと2014年12月に開業。以来、全国から大学病院でも難しい内容の対応を求める人々を受け入れ、よろづお悩み相談所として多くの人々の様々な”家族(計画)の問題”を改善に導く。

著書に”女性のがんの本当の話”(ワニブックス)、”遺伝するがん・しないがん”(法研)がある。
少ない専門家で、正直で嘘のない言葉選びから週刊誌等の取材も多く、医療系の特集に時折コメントが掲載。(週刊現代、週刊ポスト、週刊新潮など)。
テレビ出演も時々あり、小林真央さんの病状を市川海老蔵さんが初めて記者会見した日、フジテレビの午後4時台のニュース番組に生出演して解説。その他TBS, AbemaTVなど出演。

一人一人の事情に合わせた個別対応をするべく、しっかり時間を取って本当のニーズは何かを聞き取りすることを大切にしている。短い時間でもお互いが出会ったことが相手の人生に大きな意味があるような医師患者関係の構築を理想として日々精進。

患者さんが抱えている問題を解決するにはどうしたらよいのかを考えて医師歴8年目に法学部に学士入学した程度に”凝り性”。女医が少なかった時代に3人の母親として難関専門医を3つ取得して社会進出を続けた経験から、女性のライフスタイルを医学以外の部分でも支援したいと願っている。
いろんな人生経験から心に響く言葉を投げかけるため、”会うと元気になる”ということで有名。飼いネコ3匹。

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