ハプロ不全 haploinsufficiency

ハプロ不全とは?

ハプロ不全とは、遺伝子の1つのコピーが不活性化または欠失し、遺伝子の残りの機能的コピーが正常な機能を維持するために必要な遺伝子産物を生成するのに十分でない場合に起こる状況をいいます。つまり、遺伝物質が1コピーになることにより正常なら2コピーの遺伝物質が担う機能が果たせなくなることをハプロ不全といい、臨床的な影響はハプロ不全がもたらすと考えられています。

遺伝学におけるハプロ不全とは、二倍体の生物における優性遺伝子の作用モデルをさしており、ヘテロ接合メンデル遺伝を習うときにAaと表記していたモデル。これに対してAAをホモ接合と言います)の遺伝子座における標準型(いわゆる野生型)対立遺伝子の単一コピーが、変異型対立遺伝子との組み合わせでは、標準的な表現型を生成するのに不十分であるというものです。ハプロ不全は、変異型対立遺伝子におけるde novo新生突然変異)または遺伝性の機能喪失突然変異によって生じることがあり、そのような変異型対立遺伝子は有効な量の遺伝子産物(多くの場合、タンパク)を産生しません。もう一方の標準対立遺伝子は依然として標準的な量の産物を産生するが、総産物は標準的な表現型を産生するには不十分、つまり生体で十分機能する量のタンパクを作ることが出来ません。このヘテロ接合性遺伝子型は、機能不全だったり疾患表現型をもたらすことがありいます。ハプロ不全は、優性遺伝子が欠失したときの疾患の発症メカニズムを標準的に説明するモデルとなっています。

昔は遺伝子は両アレルから均等に発言すると考えられていましたが、研究が進むにつれ、もともとアレル不均衡のある遺伝子も全体の20%未満あることがわかってきました。
しかし、大半の遺伝子では2つあるアレルの両方の対立遺伝子が均等に発現し、そのDNA産物であるタンパクやmRNAを両アレルで作っています。
こうしたもともと両アレルから均等に遺伝子が発現するたぐいの遺伝子の場合、片方がハプロ不全に陥り、タンパクが産生できなくなり、全体としてタンパク量が半分になると機能不全を起こすのです。

対立遺伝子のホモ接合体のみによって生じる変異型表現型は劣性であると定義されます。

ハプロ不全のメカニズムと疾患

ハプロ不全の起こる原因は複数あります。
まずは遺伝子の突然変異により、タンパクが機能するのに必須なメッセージが消去されている場合です。遺伝子の2つのコピーのうちの1つが欠失している可能性があります。この遺伝情報をもとに細胞によって生産されたタンパクが不安定になったり、細胞によって分解されたりして機能不全を起こしている可能性があります。

機能性対立遺伝子(ちゃんと働く対立遺伝子)の喪失によって引き起こされる遺伝子量の変化は、対立遺伝子不全とも呼ばれるものです。
たとえば7q11.23にある遺伝子のハプロ不全によって引き起こされる神経発達障害であるウィリアムズ症候群は、1.6Mb(160万塩基対)未満の欠失によって28個の遺伝子のコピー数の変動(CNV:コピーナンバーバリアント)によって引き起こされます。

また、常染色体優性先天性角化不全症も、テロメラーゼ逆転写酵素のハプロ不全である。これは、異常な皮膚症状を特徴とするまれな遺伝性疾患であり、その結果、骨髄不全、肺線維症、およびがんに罹患しやすいという素因をもたらします。テロメラーゼの逆転写酵素ドメインであるhTERTのモチーフDの全欠失変異は、この表現型をもたらします。テロメラーゼの量は組織増殖を維持するために重要となっています。

常染色体優性網膜色素変性症の原因として知られているPRPF31遺伝子の突然変異にはハプロ不全を引き起こすタイプの変異が存在します。この遺伝子には2つの野生型対立遺伝子(高発現型対立遺伝子と低発現型対立遺伝子)があり、高発現性対立遺伝子を持つ突然変異遺伝子を受け継いだ場合には、疾患表現型は認められません。しかし、突然変異型対立遺伝子と低発現性対立遺伝子が遺伝すると、残存タンパク量が正常な機能に必要な値を下回り、疾患表現型を呈します

コピー数バリアント(CNV)とは、ゲノムの特定の領域のコピー数の違いを指し、遺伝子の数が多すぎたり、少なすぎたりすることにつながります。ゲノム再構成、すなわち欠失または重複は、non allelic homologous recombination(NAHR)のメカニズムによって引き起こされます。先ほど出てきたウィリアムズ症候群の場合、微小欠失にはELN遺伝子が含まれ、エラスチンのhemizygosis(二倍体生物であるにもかかわらず、ある遺伝子が1コピーしか存在しない遺伝型)は、上大動脈弁狭窄症(心臓における左室の血液流出の閉塞)の原因となっています。

この記事の著者:仲田洋美医師
医籍登録番号 第371210号
日本内科学会 総合内科専門医 第7900号
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医 第1000001号
臨床遺伝専門医制度委員会認定 臨床遺伝専門医 第755号